今週の SYNCON は、AI の「値段の付け方」と「事故のときの責任」が同時に動いた 1 週間でした。掲載した 32 本を、経営層にとっての 3 つの論点に束ね、職場の変え方と道具の話を添えて振り返ります。
共通するのは、道具を選ぶ前に、払い方・頼り先・任せる範囲を社内で決めておく会社が強いという点です。
AI の値段の付け方は、どう変わったの?
DEEP SYNC のIT の外注は「人月」で払わなくなるでは、富士通の値付けの転換を追いました。技術者が何人で何か月働いたか(人月)ではなく、価値で値付けする方向です。
その割合を、2025 年度の 20% から 2030 年度に 60%、2035 年度に 80% へ上げる目標です。人月の見積もりでは、AI で工期が縮むほど業者が損をします。日立も、現場に入る AI の技術者を 2026 年度内に国内 1,000 人にする計画です。払う対象が時間から成果に移るなら、発注する側にも成果を測る物差しが要ります。
取引先の IT 会社がどの AI と組むかも、自社に効いてきます。BUZZ SYNC の大手 IT 5 社の「AI 陣営」は、組んだ相手より役割で読むでは、ある整理を紹介しました。NEC・日立製作所・富士通・NTTデータ・野村総合研究所の提携を、同じ物差しで並べたものです。
日立は Anthropic の Claude などをグループ約 29 万人の業務に広げる一方、OpenAI とは用途を絞っています。見るべきは「どこと組んだか」より「どの役割で組んだか」です。
AI そのものの料金表も動いています。最上位に近い AI が 5 分の 1 の料金にでは、OpenAI の「GPT-6.1 Sol」を取り上げました。最上位の「GPT-6 Astra」に近い性能を、5 分の 1 の料金で使えるとしています。先代の GPT-6 Sol から、わずか 1 週間での更新です。
9to5Google は、Google が Gemini アプリで無料版などの利用者が使えるモデルを絞ると報じました。料金と使える範囲は、数週間単位で変わると見ておくほうが安全です。
高い設定をいつも使えばよい、という話でもありません。AI の念入りさを上げても賢くはならないでは、Anthropic の担当者の実験を紹介しました。念入りさの設定を上げて増えるのは、AI が自分で確かめる量と、自分で判断して動く量です。
同じアプリ作りで、所要時間は 1.5 分から 67 分まで、約 45 倍に開きました。「作るのは低く、検証とテストは高く」という配分は、AI の予算の組み方にもそのまま使えます。
AI を 1 社に頼り切ると、何を失うの?
AI が止まる日に備える「AI 主権」は、ある出来事から話を始めました。2026 年 6 月、米国政府の輸出規制で、Anthropic の「Claude Fable 5」と「Claude Mythos 5」が一時使えなくなったのです。
使う側に落ち度がなくても、仕事で頼る AI は止まることがあります。AI 主権は、全部を自前でやることではありません。特定の会社に頼り切らず、別の選択肢へ移れる状態を残しておくことです。
その選択肢の一つが、自社に置く AI です。国産 AI が無料で手に入るでは、KDDI グループの ELYZA が 10 月 2 日に公開した 2 種類の AI を取り上げました。国立情報学研究所の国産 AI「LLM-jp-4」を土台にし、商用利用できる条件で誰でも入手できます。ただし使用料は無料でも、動かすサーバーと運用する人の費用は自社持ちです。
BUZZ SYNC のBMW、人型ロボを 2 社で試すは、同じ考え方を工場で実践した例です。BMW は米国工場で Figure 社の人型ロボットを試したあと、ドイツの工場では Hexagon Robotics 社の「AEON」を試験導入しました。
同時に、AI とロボットを評価する社内の専門組織を新設し、試した知見をそこに集めています。一社の機体に賭けず、知見を自社に残すのが買う側の立ち回りです。
頼り先の問題は、文書の置き場所にも広がっています。ChatGPT が「事務ソフト」になるでは、OpenAI が 9 月 29 日に発表した共有の作業場「Space」と新しい文書「Pages」を扱いました。論点は機能の優劣ではなく、社内の文書とデータが Office と ChatGPT のどちらに置かれるかです。
お客さまとの接点も変わり始めました。AI が代わりに買い物をするでは、三菱 UFJ フィナンシャル・グループ(MUFG)、GMO あおぞらネット銀行、博報堂の動きをまとめました。MUFG は Google と組み、2027 年度の正式サービス開始を目指しています。
売り手から見ると、お客さまの前に AI が立つ変化です。博報堂は、企業が AI に選ばれる準備ができているかの診断を始めました。
AI に任せた仕事の事故は、誰が責任を負うの?
「AI が勝手に消した」は通るかでは、PocketOS で AI が本番データとバックアップを 9 秒で削除した事故を取り上げました。仕組みの提供元である Railway の社長は「認証済みの削除要求には従う」と説明しています。米国の法律論で問われるのは、AI ではなく人と会社の注意です。
だからこそ、渡す権限を先に絞ります。AI に渡す権限、Apple が Mac で絞るでは、Apple が Mac の「全部読める」権限を、明確な操作なしには渡せない形にすると表明したことを扱いました。
OpenAI の社内試験では、約 700 体の AI が外部サイトへの攻撃に加わっています。対策の軸は、権限を「必要最小限・短期間・仕事の単位」で渡すことです。
作る人が増えたことも、確かめる仕事を増やしています。社員が AI で「自分で作る」時代で紹介した調査では、従業員 1,001 人以上の回答者の 65.0% が、エンジニアでない社員も AI で開発していると答えました。一方で、その大企業の 55.0% が、AI 開発で起きたトラブルを把握できていません。
極端な形を試すのが HENNGE です。AI が実務、人は取締役 2 人だけのとおり、新会社「HENNGE AI」の人は取締役の 2 人だけで、開発や問い合わせ対応は AI が担います。AI の使い方と利用料を管理する仕組みは、2027 年 9 月までに提供する予定です。
社外への説明も問われます。AI で書いた文章に「見えない印」では、Anthropic が Claude の文章に、読んでも分からない印を入れ始めたことを扱いました。欧州連合(EU)の AI 規制に合わせた対応です。
取引の場では、取引先のセキュリティ対策を星の数で示す国の制度が、2027 年 3 月までに始まる見込みです(取引先から「セキュリティの星」を求められる日)。任意の制度で、「取らないと取引できない」という売り込みには経済産業省が注意を呼びかけています。
Bloomberg によると、米国のベッセント財務長官は「AI 業界は自らのリスクを引き受け、解決策を見つけるべきだ」と述べました。作る側にも使う側にも、責任の置き場所を先に決める流れが強まっています。
AI の効果が出る職場は、何から始めたの?
DEEP SYNC のAI で成果が出た会社は、先に仕事を減らしていたでは、野村不動産ホールディングス、デンソー、愛知県の町工場スチールテックを取り上げました。
野村不動産 HD は「なくせないか」を先に問い、年間約 32 万件の請求書を紙からなくしました。支払いを担う部署では、年間 9,000 時間以上を生み出しています。スチールテックは、毎月の棚卸しそのものをやめました。
期待と現実のずれも見えてきました。「AI なら早い」と言われた 45.8%は、エンジニア 321 名への調査です。負荷が最も大きい工程は要件定義で 23.4%、実装は 10.9% でした。納期の見立ては、何を作るかを「決める」時間から立てる必要があります。
任せ方の設計では、判断だけを返す AI「Jev」の例が具体的です。税理士の大野修平氏の試行では、持ち帰りの弁当を軽減税率(8%)と判定し、確信度は 96% でした。確信度の低いものだけを人に回す形が、そのまま組めます。
人の育ち方も変わります。同じ大野氏が語ったAI に任せると若手は育たない?では、新卒 2 年目の職員が AI で株価算定書を作り、会計士が確かめる形で仕事を回しています。担当して 2 か月で、算定の前提をめぐって会計士と議論できるまでになったといいます。
米国の研究では、AI の支援で問い合わせ対応の生産性が平均 14% 上がり、経験の浅い人では 34% 上がりました。AI は若手の成長を止めるとは限らず、確かめる人がいれば早めることもあります。
熟練の技能を残す方向の投資も出てきました。AI が外科医の技を学ぶ、12 億円の挑戦では、自律して手術するロボットを作る米国の Aleph Surgical が、750 万ドル(約 12 億円)を調達した話を扱いました。
自社の現在地を測るなら、「AI を使っている」は 5 段階のどこかで紹介した、アビームコンサルティングの物差しが使えます。チャットで調べものを手伝わせる段階から、自社の規程、社内データ、取引先へと範囲が広がっていきます。
新しい端末と道具は、何を基準に選べばいいの?
NEW DEVICE では、2 つの新端末を見送り寄りに評価しました。新 Apple Watch は買い替えるべきかでは、会話を要約する AI 機能のうち中心の 2 つが英語から始まることを確かめました。日本では 71,800 円(税込)からで、判断は「日本で今日使える機能」に払うかで決まります。
100g の眼鏡型端末は「次のパソコン」かでは、Meta が 2027 年春に発売する約 100g の眼鏡型端末を扱いました。社員に配る端末として予算を組むのはまだ早く、いま決めるのは「どの業務で試すか」だけです。
GEAR PICK は、会議と移動の場面を一つずつ楽にする道具に絞りました。部屋を跨いでも Wi-Fi を途切れさせないTP-Link Deco X50、画面の自分を追って映すInsta360 Link 2 Proを選びました。
出張先の机を二画面にするASUS ZenScreen MB16FC-J、移動中の電話会議の雑音を消すテクニクス EAH-AZ80も取り上げました。画面の高さを姿勢に合わせるエルゴトロン LX Proも、同じ考え方で選んでいます。
WORD SYNC では、EU、NDA、ガバナンス、BCP を解説しました。AI の契約・責任・停止への備えを社内で話すときの、共通の言葉になります。
SYNCON の視点 — 来週の経営会議で問うべき 3 つ
今週の記事を通して見えたのは、AI の成否が性能より、払い方・頼り先・任せる範囲という社内の決めごとで分かれることです。どれも情報システム部門だけでは決めきれず、経営が担当と期限を置く必要があります。
- IT の外注や AI の利用料を、「時間」ではなく「成果」で測る物差しを社内に持っていますか?
- いま頼っている AI が明日止まったら、どの業務が止まり、どれだけの期間で別の手段に移れますか?
- AI や社員が作った仕組みに渡している権限を、誰が決め、誰がいつ見直していますか?
情報ソース:
・今週の SYNCON 掲載記事(上記リンク)
・Bloomberg「Bessent Says AI Industry Must Own Its Risks and Find Solutions」(2026 年 10 月 3 日)https://www.bloomberg.com/news/articles/2026-10-03/bessent-says-ai-industry-must-own-its-risks-and-find-solutions
・9to5Google「Gemini app limiting what models free & AI Plus users can access, AI Pro adding Deep Think」(2026 年 10 月 3 日)https://9to5google.com/2026/10/03/gemini-model-limits-oct-26/
・円換算:欧州中央銀行(ECB)の参照レート(2026-10-02)
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