AI に任せると若手は育たない? — 会計士が見た新しい育ち方

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X で話題になっていた投稿を、SYNCON 編集部が深掘りします。公認会計士・税理士の大野修平氏(@Shuhei_Ohno)が、AI に仕事を任せた新人がかえって育ったという、自身の事務所の体験を語りました。「AI に任せると若手が育たないのでは」という多くの職場の不安に、現場から別の見方を示した投稿です。

30 秒でわかるポイント

  • 大野氏の事務所では、新卒 2 年目の職員が AI で株価算定書を作り、会計士がそれを確かめる形で仕事を回しています
  • その職員は担当して 2 か月で、算定の前提をめぐって会計士と議論できるまでになったと大野氏は書いています
  • 米国の研究では、AI の支援で問い合わせ対応の生産性が平均 14% 上がり、経験の浅い人では 34% 上がりました

1 分でわかる解説

大野氏の論点は、育成の主役が入れ替わるということです。これまで事務所は、研修や専門書を全員に配って底上げしてきました。AI が下書きを担うなら、組織に要るのは「AI を賢くできる人」と「AI の出力を確かめられる人」だと大野氏は見ています。

それでも、その若手は育ちました。AI が出す算定書を読み、分からない点を AI に尋ね続けたからです。目の前の仕事に直結した学びは、吸収の量が違ったと大野氏は振り返ります。

一方で大野氏は、こうしたきっかけを今後は組織が用意してくれない、とも書いています。育つかどうかが本人しだいになる。ここが組織を預かる人にとっての論点です。

ここから考えたい 3 つの問い

  • AI が作った下書きを、誰がどこまで確かめる決まりになっていますか?
  • 若手が AI の出力を読んで疑問を持ったとき、それを詳しい人と議論できる場はありますか?
  • いま行っている研修のうち、目の前の仕事とつながっていないものはどれくらいありますか?
全文を読む(約 5 分)

「AI に任せたら若手は育たない」は本当?

大野修平氏は公認会計士・税理士で、セブンセンス税理士法人に所属しています。会計事務所向けの「AI研究会」で総合ディレクターを務め、税理士向けに生成 AI の活用法をまとめた本も出しています。

今回の投稿は、矢崎誠一氏(@gaiking2013)への返答です。矢崎氏は大野氏の前日の投稿を引用し、AI 時代に怖いのは人間の能力の格差だ、という趣旨を書いていました。

大野氏はそこで、自分の事務所の話を出しました。新卒 2 年目の職員が、AI に作業を任せる道具(Claude Code)を使い、ほぼ見ないまま株価算定書を作っている。こう話すと、多くの税理士から「それでは彼が成長しないのでは?」と怪訝な顔をされるそうです。

この投稿が効いているのは、抽象論で終わらせず、具体的な若手の姿で答えている点です。

研修を全員に配る時代は終わるの?

大野氏はまず、これまでの育成を振り返ります。事務所は品質を上げるため、職員に研修を受けさせ、現場を経験させ、専門書をそろえてきました。

ただ、受け身で吸収できる量には限りがあります。大きく伸びた人は、研修がなくても自分で学んだはずだ、と大野氏は書きます。それでも全員を賢くするのが、人手に頼る税理士業務では最善だったのです。

AI が業務を担い始めると、この前提が変わります。必要なのは「AI を賢くできる人」と「AI の出力をレビューできる人」で、それは限られた人数で足りる。大野氏はこれを、会社に筋トレ研修がないのは筋肉が要る業務がないからだ、とたとえています。

一方で、「職員は家族と同じ」と考える経営者を否定はしていません。皮肉ではなく素晴らしい考え方だと書いたうえで、効率の悪いものは長く続きにくいと指摘しています。

2 か月で会計士と議論できた理由は?

投稿の後半は、その新卒 2 年目の職員との立ち話です。テーマは、スタートアップの株式の価値を計算式(OPM、ブラック・ショールズ式)で測るときの前提でした。

株価の振れ幅(ボラティリティ)を、似た上場企業の数字のまま使うか。借入の影響をいったん外し、評価する会社の資本構成に合わせて直すか。職員は「スタートアップは借入がないことも多いので、外したままでも問題はない」と答えました。

大野氏は答えの正否は置いたうえで、株価算定に関わって 2 か月の若手がこうした意見を持てることは、これまでの組織ではあり得なかったと書いています。

理由は、その職員が学んだからです。「君が考えるのではなく、AI に考えさせて」と言われながらも、AI が出す算定書を読み、疑問を AI に尋ね、自分のものにしていきました。なお、これは大野氏が語る一人の事例で、外部の資料で確かめられるものではありません。

研究とルールは何を示している?

AI と若手の伸びについては、米国の研究があります。エリック・ブリニョルフソン氏らが 2023 年に全米経済研究所(NBER)で公表した「Generative AI at Work」です。

問い合わせ対応の担当者 5,179 人を調べたところ、AI の支援で 1 時間あたりの解決件数が平均 14% 増えました。経験の浅い人では 34% 増え、熟練者ではほとんど変わりませんでした。研究は、定着率の改善や働き手の学びにつながる可能性にも触れています。

対象 AI の支援による生産性の変化
全体の平均 14% 増
経験の浅い人 34% 増
熟練した人 ほとんど変化なし

日本の税理士業界でも、AI を使う前提のルールづくりが進んでいます。TKC 全国会は 2026 年 6 月に AI 活用の基本方針を公表し、関与先の同意を得ること、出力の正確さを確かめ最終判断は税理士が行うこと、利用状況を見える化することを求めました。

同じ方針は、業務で知った秘密を AI に入力すると、税理士法 38 条の守秘義務に反するおそれがあるとも注意しています。AI の出力を確かめる人は、制度の面でも欠かせない役割になりつつあります。

SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか

盗むべきなのは、「AI の出力をレビューする仕事」をそのまま育成の場にする発想です。大野氏の事務所の若手は、研修ではなく、目の前の算定書を読み、問い、資格者と議論することで伸びました。大野氏は今後、組織はきっかけを提供してくれないと書いています。だからこそ、きっかけを仕組みとして残すかどうかは、組織を預かる人が決められます。

月曜から始めるなら、AI に下書きを任せている業務を一つ選び、確かめる担当と最終判断をする人を決めることです。そのうえで、若手が AI の出力を読んで持った疑問を書き留め、詳しい人と話し合う時間を設けます。レビューできる人を誰が育てるのか。この問いに答えを持たないまま AI を広げると、確かめる人がいない職場になります。

要点まとめ

  • 公認会計士の大野修平氏の事務所では、新卒 2 年目の職員が AI で株価算定書を作り、会計士が確かめています
  • その職員は担当して 2 か月で、算定の前提について会計士と議論できるまでになったと大野氏は語ります
  • 大野氏は、組織に要るのは「AI を賢くできる人」と「AI の出力をレビューできる人」だと見ています
  • 米国の研究では、AI の支援で生産性が平均 14%、経験の浅い人では 34% 上がりました
  • TKC 全国会の方針は、AI の出力を確かめて最終判断は税理士が行うことを求めています
  • レビューの仕事を、若手が学ぶ場として設計できるかが分かれ目です

情報ソース:
・TKC 全国会「AIの活用に関する基本方針および会計事務所における必要な対応」(2026 年 6 月 3 日)
・NBER「Generative AI at Work」Erik Brynjolfsson, Danielle Li, Lindsey R. Raymond(2023 年 4 月)
・公募ガイド(koubo.jp)掲載のプレスリリース(大野修平氏のセミナー告知)
・元投稿:大野修平氏(@Shuhei_Ohno)、2026 年 10 月 2 日

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