野村不動産ホールディングスは経理の仕事を見直し、支払いを担う部署で年間 9,000 時間以上の時間を生み出しました。愛知県の町工場スチールテックは、毎月の棚卸しそのものをやめています。
両社に共通するのは、AI などの道具を選ぶ前に、仕事そのものを減らしていたことです。自社で AI の効果が出ないとき、見直す順番はここにあります。
30 秒でわかるポイント
- 野村不動産 HD は「なくせないか」を先に問い、年間約 32 万件の請求書を紙からなくした
- デンソーは、同じ相談に人が答え続ける形をやめ、問い合わせを会社の資産に変えようとしている
- スチールテックは 20 代の若手が自動化を作り、市販の自動化ソフトを解約した
1 分でわかる解説
各社の動きを並べると、同じ順番が見えてきます。道具の話は、いちばん最後です。
| 順番 | 問うこと | 各社の例 |
|---|---|---|
| 最初 | その仕事はなくせないか | 野村不動産 HD の「引き算」 |
| 次 | 誰が回すか | デンソーは人が答え続ける形をやめた。スチールテックは現場の若手が作る |
| 最後 | どの道具を使うか | 請求書の管理サービス、Google の生成 AI「Gemini」 |
順番を逆にすると、要らない仕事を AI で速くするだけになりかねません。デンソーの責任者も、データを探せず、知見が再利用されない状態では、AI を入れても業務は劇的には変わらないと話しています。
自社で確かめる 3 つの問い
- AI を入れる前に、その業務を「なくせないか」と問いましたか?
- 同じ質問に、同じ担当者が何度も答えていませんか?
- 自動化の仕組みを、現場の誰が作り、誰が直していますか?
全文を読む(約 5 分)
何が起きたの? — 道具より先に、仕事を減らした
野村不動産ホールディングス(HD)は、2023 年 7 月に Sansan の請求書管理サービス「Bill One」を入れました。今はグループ 10 社で使い、年間約 32 万件の請求書を紙からなくしています。
支払いをまとめる資金部では、年間 9,000 時間以上の業務時間が生まれたといいます。
自動車部品大手のデンソーでは、デジタル技術で仕事を作り直す取り組み(DX)の担当者に、他部署から同じ相談が繰り返し届いていました。データや知見(ナレッジ)をためても、現場で十分に使われないことが課題でした。
金属加工のスチールテック(愛知県大府市)は、Gemini を実務に使っています。在庫をいつでも確かめられるようにして、毎月 2 日ほどかけていた棚卸しをなくしました。
| 会社 | 最初に見直したこと | 結果 |
|---|---|---|
| 野村不動産 HD | その業務をなくせないか | 資金部で年間 9,000 時間以上を創出 |
| デンソー | 人が同じ相談に答え続ける形 | 問い合わせを組織の資産に変える仕組みへ |
| スチールテック | 棚卸しと、市販の自動化ソフトに頼る形 | 棚卸しが不要に。自動化ソフトは 2025 年末に解約 |
「引き算」ってどういうこと?
野村不動産 HD の仲氏は、仕組みを入れる前の問いを並べています。なくせないか、減らせないか、共通化できないか、標準化できないか、です。
要は、業務全体を見渡し、本当に必要な仕事かを考え直すことです。記事はこれを「引き算」の考え方と呼んでいます。
ただし、引き算にも限界があります。同社は開発、資産運用、仲介、管理と事業が幅広く、グループ会社ごとに業務や会計処理が違います。無理に一つの仕組みにそろえると、システムが複雑になり、AI を使うときの判断条件も増えるといいます。
デンソーのパワトレイン DX 推進室長、植田大治氏は、「データとナレッジを集めて AI を入れよう」という話が中心になりがちだと指摘します。探せないデータと再利用されない知見のままでは、AI を入れても変わらない、という見方です。
そこで同社は、担当者が頑張って答え続ける「人が頑張る DX」から抜け出そうとしています。届いた問い合わせを出発点に、AI で知見を組織の資産として回していく「ナレッジ循環」です。
現場の仕事はどう変わるの?
スチールテックでは、仕組みを作る人が変わりました。作ったのは 20 代の若手社員です。理系の出身でもなく、プログラミングの教育も受けていません。
以前は、顧客から届く PDF や図面を人が読み取り、作図し、基幹システムに入力していました。一時期は中国・大連の拠点に任せていた作業です。今は Gemini に書かせたプログラムで、読み取りから登録まで自動で動きます。大連の拠点は閉じました。
| 仕事 | これまで | これから |
|---|---|---|
| 在庫の確認 | 毎月 2 日ほどかけて棚卸し | いつでも在庫がわかり、棚卸しは不要 |
| 注文の入力 | 人が読み取る。大連の拠点にも委託 | 読み取りから登録まで自動 |
| 定型作業の自動化 | パソコン作業を自動でこなす市販ソフト(RPA)を契約 | 社員が作ったプログラムに置き換え、2025 年末に解約 |
| 工程の管理 | ホワイトボードと勘で納期を回答 | 画面で工程を動かし、数字を見て納期を回答 |
費用について、出口弘親社長は、1 ユーザーあたり月額 1,600 円程度の AI が高度なシステム構築を代わりに担うと話しています。
会計も外部の事務所に任せていましたが、2026 年から自社で行う方針に切り替えました。月次決算は、翌月の稼働 2 日目には仕上がる体制になったといいます。
注意点もあります。どの数字も会社側の説明にもとづくもので、他社で同じ効果が出るとは限りません。スチールテックでは大連の拠点が閉じ、そこでの仕事はなくなりました。仕事を減らす判断は、人の配置を決める判断でもあります。
SYNCON の視点 — 道具の前に、引き算と担い手
AI の効果が出ないとき、多くの会社は道具を替えることを考えます。今回の例が示すのは、見直す順番が逆だということです。
社長が見直す順番は、まず「その業務はなくせるか」です。次に「誰が回すか」。担当者の頑張りに頼っていないか、仕組みを直せる人が現場にいるかを確かめます。道具を選ぶのは、その後です。
具体的には、AI の予算を承認する前に、なくす業務の一覧と、仕組みを回す担当者の名前を出してもらうことです。部署やグループ会社ごとの違いを無理にそろえないという判断も、その一覧の中で決めておけます。
要点まとめ
- 野村不動産 HD は「なくせないか」を先に問い、資金部で年間 9,000 時間以上を生んだ
- 請求書管理サービスはグループ 10 社で使われ、年間約 32 万件の請求書を紙からなくした
- デンソーは、同じ相談に人が答え続ける形をやめ、問い合わせから知見を回す仕組みへ
- スチールテックは 20 代の若手が自動化を作り、棚卸しをなくし、RPA を 2025 年末に解約
- 無理な統一はシステムを複雑にする。仕事を減らす判断は、人の配置の判断でもある
- 見直す順番は、業務をなくす、担い手を決める、道具を選ぶ
情報ソース:
・ITmedia ビジネスオンライン「「まず、その業務なくせない?」 野村不動産HDが経理DXで「年間9000時間」を生み出した“引き算”の考え方」(2026 年 9 月 30 日)
・ITmedia ビジネスオンライン「DX担当「また同じ質問か……」 デンソー「人が頑張る」をやめた、AIが回す「ナレッジ循環」の仕組み」(2026 年 9 月 30 日)
・ビジネス+IT「【単独】愛知の町工場から「棚卸しもRPAも」消えた…「Gemini活用4事例」が衝撃すぎた」(2026 年 10 月 1 日)
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