【DEEP SYNC】資生堂・三菱食品・NEC は AI をどこに当てたか — 三つの型で作り手が決まる

DEEP SYNC

資生堂、三菱食品、NEC の三社が、この一年で公表した AI エージェント(人に代わって手順を組み立てて実行する AI)の使いどころが出そろった。資生堂は研究員の原料探索を 95% 短縮し、三菱食品は年間 12 億件の取引データを土台に発注を自動化してトラック台数を約 30% 減らせると試算し、NEC は複数システムをまたぐ供給網の判断を代行する製品を年額 1,800 万円からで売り始めた。三社を並べると、エージェントが効く仕事は三つの型に分かれる。自社のどの業務がどの型に当たるかを決めるのが、経営側の最初の仕事になる。

何が起きたか — 三社が当てた場所

資生堂ジャパンの DX&AIX 戦略部は、化粧品の原料を探す研究員の作業をエージェントに置き換えた。従来は「海」のような商品テーマを検索語に言い換える解釈力と、膨大な原料情報を知り尽くした知識の両方が要り、一回の探索に長いと 2〜3 時間かかる属人的な仕事だった。エージェント化の結果、探索時間は 95% 減り、3 分で従来より 20〜50% 多い原料候補を提案できるようになった。利用した研究員の信頼度は 5 段階評価で 4.2 だった(ASCII.jp、2026 年 4 月)。

三菱食品は食品メーカーと小売の間に立つ卸で、2023 年 10 月にデータクラウドを導入して年間 12 億件の取引データを統合する基盤を作った。基幹システムは約 100 億円を投じて 2030 年までに刷新中で、品揃え、棚割、受発注の自動化、価格の最適化に AI を当てる方針を公表している。日清食品との実証では、トラック一台あたりの積載効率を最大にする AI 発注モデルを作り、配送に必要なトラック台数を約 30% 減らせると試算した。特売の発注予定を事前に共有したことで、日清食品側の在庫調整業務は月間で約 200 時間減った(DIGITAL X、2026 年 6 月)。

NEC は 8 月 28 日、需要予測や調達交渉、生産計画の最適化といった供給網の業務を自律的に実行する「NEC SCM AIエージェント」を 9 月に発売すると発表した。複数のシステムやデータを横断して使い、一つの操作画面で情報の収集から意思決定の提示までを完結させる。価格は年額 1,800 万円(税別)からで、データ量と機能で変動し、初期費用が別途かかる。NEC は今後 5 年間で 100 社への納入を目標に掲げた(AI Watch、LOGI-BIZ、IoTNEWS)。

技術の要点 — 三つの型に分かれる

三社の使い方は、仕事の性質で三つに分けられる。第一は「人の目利きを写す」型で、資生堂がこれに当たる。専門家の頭の中にある判断基準を、AI に手順として持たせる。資生堂は、あいまいな入力を仮の文書に変換してから検索する仕組みと、文書検索とキーワード検索を組み合わせる仕組みを重ね、最後に複数の大規模言語モデル(LLM)が専門家の立場で候補を並列に評価し、合致度と選定理由を示す構成にした。技術の細部より大事なのは、「なぜこの原料か」を理由付きで返す設計にしたから研究員が信頼した、という点になる。

第二は「大量の定型を捌く」型で、三菱食品が当たる。取引データが年間 12 億件あれば、一件ごとの判断は単純でも量で人が追いつかない。ここでは AI の賢さより、データが一か所に揃っているかが成果を決める。三菱食品がデータ基盤を先に作り、基幹システムの刷新と並走させているのはそのためと読める。

第三は「複数システムを横断して例外に対処する」型で、NEC の製品が当たる。供給網は調達、生産、在庫、物流が別々のシステムで動き、配送遅延のような例外への対応は現場の人手に頼らざるを得なかった。エージェントが各システムから情報を集めて選択肢を提示し、人が決める。NEC 自身も、顧客固有の業務やデータに合わせてエージェントを追加・拡張する前提で売っている。

経営層への影響 — 「誰が作るか」が型で決まる

三つの型は、作り手も違う。目利きを写す型は、目利きの持ち主が近くにいないと作れない。資生堂の事例は研究員ではなく事業側の DX 部門が主導したが、研究員が何を基準に原料を選ぶかを言葉にする工程が要る。情報システム部門に丸投げしても、写すべき判断基準が手に入らない。

定型を捌く型は、逆に現場の熱意だけでは動かない。データ基盤とシステム刷新という、投資判断を伴う土木工事が先に来る。三菱食品の約 100 億円は、AI そのものではなく土台の値段になる。横断型は自社で組むより買う選択肢が出てきたが、年額 1,800 万円からという水準は、対象業務の人件費と例外対応の損失を足して見合うかを計算してから決める話になる。

制約もある。資生堂の数字は原料探索という一業務の成果で、研究開発全体の短縮ではない。三菱食品の約 30% は実証段階の試算で、本格協業はこれから広げる段階にある。NEC の製品は発売直後で、導入実績はまだ公表されていない。三社とも「人が最終判断する」前提を外していない点も共通している。

SYNCON の視点 — 型が決まれば作り手が決まる

「AI エージェントを入れたい」という相談の多くは、どの型の仕事を任せたいかが決まっていない。目利きを写すなら、写される本人が工程を言語化する時間を経営が確保する必要がある。定型を捌くなら、まずデータが一か所に揃っているかを確かめる。横断型なら、どのシステムをまたぐのかと、例外が起きたときに誰が決めるのかを先に書き出す。型を決めると、社内の誰が主導するか、外から何を買うか、いくらまでなら見合うかが芋づる式に決まる。

三社の共通点は、AI の性能を競っていないことにある。資生堂は研究員が信頼するかを測り、三菱食品はトラックの台数で測り、NEC は人手に頼っていた例外対応を対象に据えた。来週の経営会議で問うべきは、自社の業務を三つの型に仕分けたとき、最初の一つはどれで、その作り手は社内の誰かという点になる。

要点まとめ

  • 資生堂ジャパンは研究員の原料探索をエージェント化し、探索時間を 95% 削減、3 分で 20〜50% 多い候補を提示できるようにした
  • 三菱食品は年間 12 億件の取引データを統合し、日清食品との AI 発注実証でトラック台数を約 30% 減らせると試算した
  • NEC は複数システムを横断する「NEC SCM AIエージェント」を年額 1,800 万円からで発売し、5 年間で 100 社を目標にする
  • エージェントが効く仕事は「目利きを写す」「大量定型を捌く」「複数システム横断で例外に対処する」の三つの型に分かれる
  • 型ごとに作り手が違う。目利き型は本人の言語化、定型型はデータ基盤への投資、横断型は買う前の損益計算が先に来る
  • 三社とも一業務の成果か実証段階の数字で、最終判断は人が持つ前提を崩していない

情報ソース:
・ASCII.jp「常識を裏切るAIの実力 95%時短した資生堂と、3000万円の装置を不要にしたキリンビジネス」(2026 年 4 月 23 日)
・三菱食品「デジタル活用(DX推進)| 機能紹介 | 事業内容」(公式サイト)
・DIGITAL X「三菱食品と日清食品、食品流通チェーンで商流・物流データを連携する協業を本格化」(2026 年 6 月 4 日)
・日本食糧新聞「三菱食品、基幹システム刷新 100億円投じ全業務にAI」(2024 年 8 月 7 日)
・AI Watch「NEC、多様な業務を自律的に実行する『NEC SCM AIエージェント』」(2026 年 8 月 31 日)
・LOGI-BIZ online「NEC、多様なサプライチェーン業務を自律実行するAIエージェントを発売へ」(2026 年 8 月 29 日)
・IoTNEWS「NEC、多様なサプライチェーン業務を自律実行する『NEC SCM AIエージェント』を発売」(2026 年 9 月 8 日)

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