社内の IT 環境の不備で、従業員 1 人あたり年間 147 時間、営業日にして約 18 日分の働きが失われている。社内 IT の整備を支援する DXER が、経営者・役員 300 人と正社員 1,000 人に聞いた調査の推計だ。一方で経営者の投資先の首位は AI の導入で、現場が困っている端末や相談窓口は後回しになっている。AI に予算を付ける前に、足元で漏れている時間を誰が把握しているか。経営層が問われるのはそこだ。
何が起きたか — 1 人あたり年 18 営業日の損失
調査は、AI や IT ツールを日常的に使っている企業で働く経営者・役員 300 人と正社員 1,000 人が対象である。動作の遅い端末、足りないツール、使い方が分からず止まる時間。こうした社内 IT の不備で週にどれだけ時間を失っているかを尋ねると、週 1 時間以上と答えた人が 57.4%、週 3 時間以上が 38.0% に達した。平均は週 2.8 時間で、年間に直すと約 147 時間、営業日に換算すると約 18 日分になる。
時給 3,000 円で人件費に置き換えると、1 人あたり年約 44 万円。従業員 100 人の企業なら年約 4,400 万円が、目に見えないまま消えている計算だ。
経営者の側にも聞いている。今後の投資で優先したい領域は「AI・自動化ツールの導入」が 47.3% で首位、「セキュリティ強化」が 34.3%、「PC やデバイスの刷新」が 28.3% と続く。現場の困りごとを受け止める「ヘルプデスク・IT サポート強化」は 8.7% にとどまった。
現場はどうか。IT 環境に改善が必要だと感じている従業員は 44.2%。ところが、そのうち 62.4% は会社に要望を出していない。困っているのに声を上げない層が、改善を求める人の 6 割を超えている。
なぜ損失が見えないのか
年 18 営業日という数字は大きいが、現場での実感は「起動に数分待つ」「ファイルが開かない」「共有の仕方が分からない」といった細かい足止めの積み重ねである。一件ごとは小さく、誰も記録しない。損益計算書に「IT の待ち時間」という科目は無く、人件費の中に溶けて消える。だから経営会議の議題に上がらない。
もう一つの理由は、現場の声が上がる経路が細いことだ。社内で IT の困りごとを受け付ける相談窓口(ヘルプデスク)に人が足りない、あるいは窓口が誰なのか分からない。そういう会社では、従業員は「言っても変わらない」と学習し、自分で回避策を作って黙る。要望を出していない 62.4% は、満足しているのではなく、諦めているのだと読むべきだろう。
経営者が AI 導入を最優先に置くこと自体は間違いではない。問題は、AI の効果が「その手前の環境」に依存することだ。遅い端末では AI ツールも遅い。データが散らばっていれば AI に渡せない。使い方を教える窓口が無ければ、導入しても使われない。土台の損失を放置したまま上に積んでも、積んだ分だけ効かない。
経営層への影響 — 予算の順番と、損失の持ち主
まず、金額の桁を押さえておきたい。100 人企業で年約 4,400 万円という推計は、AI ツールの年間利用料と比べて小さくない。AI の投資対効果を議論する前に、この損失をどこまで減らせるかを議論した方が、回収が早い場合がある。端末の更新や相談窓口の増員は、効果が読みやすく、失敗しにくい投資でもある。
次に、損失の「持ち主」がいないことが問題だ。端末は総務、ツールは各部門、相談窓口は情報システム担当と、責任が分かれている会社では、年 147 時間という数字を合算して見る人がいない。誰も持っていない損失は、誰も減らさない。AI 導入の担当者を決めるのと同じ熱量で、「現場の IT の待ち時間を減らす担当」と、その人が動かせる予算を決める必要がある。
三つ目は、声が上がらない構造への対処だ。改善が必要と感じる人の 62.4% が要望を出していないなら、待っていても情報は来ない。四半期に一度でよい。「先週、IT のせいで止まった時間はどれくらいか」を全社員に聞く。それだけで、AI より先に手を打つべき場所が見える。
SYNCON の視点 — AI の前に、足元の 18 日
経営者が AI に目を向けるのは、競合が動いているからであり、成果が語りやすいからだ。しかし現場で起きているのは、派手な変革ではなく、毎週 2.8 時間ずつ削られる地味な損失である。この調査の価値は、その地味な損失に初めて金額の桁を付けたことにある。年 44 万円を 1 人ずつ、100 人で 4,400 万円。この数字を自社の人数に置き換えてみるだけで、投資の順番を考え直す材料になる。
AI 導入は、土台が整った会社ほど早く効く。逆に言えば、土台の点検を飛ばした会社では、AI の予算が「遅い端末の上で動く高価なツール」に化ける。来週の経営会議で問うべきは、「AI に幾ら使うか」ではない。「社員 1 人が IT の不備で失っている時間を、誰が数字で持っているか」。答えられる人がいなければ、まずその担当と予算を決める。それが AI 導入の第一歩になる。
要点まとめ
- DXER の調査で、社内 IT の不備による損失は従業員 1 人あたり週 2.8 時間、年間約 147 時間(約 18 営業日)と推計された
- 時給 3,000 円換算で 1 人あたり年約 44 万円、従業員 100 人の企業では年約 4,400 万円に相当する
- 経営者の投資優先は「AI・自動化ツールの導入」が 47.3% で首位、「ヘルプデスク・IT サポート強化」は 8.7% にとどまる
- IT 環境の改善が必要と感じる従業員は 44.2%、そのうち 62.4% は要望を出していない
- AI の効果は端末・データ・相談窓口という土台に依存する。土台の損失を数字で持つ担当と予算を先に決める
情報ソース:
・ITmedia @IT「経営者は『AI導入』に夢中、現場は『IT環境』に疲弊 ITサポート軽視が招く時間・人件費ロスの実態」(2026 年 9 月 18 日)
・キーマンズネット「社内ITの不備で1人年18営業日の時間ロス、100人企業で約4400万円の損失換算に」(2026 年 8 月 25 日)
・Forbes JAPAN「社内IT環境の不備が奪う年間18営業日 改善が必要と感じる6割が声を上げない実態」
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