
厚生労働省が 8 月、大臣直轄の「ヘルスケア AX・DX 推進本部」を作りました。創薬・医療・介護の AI 活用をまとめて進める司令塔で、来年度は AI 関連の 8 事業に約 492 億円を要求しています。
目指すのは「AI 共創・協働型の創薬・医療・介護」です。2040 年の人手不足を前に、日本が持つ質の高い医療データを、AI の研究開発と現場への導入の両方につなげる狙いです。
30 秒でわかるポイント
- 大臣直轄の司令塔を新設。創薬・医療・介護の AI 活用を 1 か所で束ねます
- 狙いは「研究開発」と「現場への導入」の両輪。来年度は約 492 億円、約半分は介護向け
- 白書の結論は「AI は入れるだけでは効かない」。業務の作り直しと一体で進めます
1 分でわかる解説
AX は「AI による業務の変革」のことです。推進本部は、分野ごとにばらばらだった AI の施策を、1 つの司令塔でまとめて進めます。
| 分野 | いまの課題 | 目指す姿 |
|---|---|---|
| 創薬 | AI 創薬への対応が限られ、参入の壁が高い | AI で薬づくりを速く高度に |
| 医療機器 | 生成 AI の医療機器はまだ萌芽期 | 日本発の AI 医療機器を増やす |
| 医療・介護の業務 | 業務を助ける AI の普及率が低く、費用対効果も不明確 | 効率的で続けられる医療・介護 |
医療や介護の料金は国が決めるため、値上げで人件費を賄えません。同じ人数でより多くの人を支えるために、国が AI にお金を出します。
ここから考えたい 3 つの問い
- 身近な職場で、人に直接関わる時間と、記録・調整など裏方の時間は、どれくらいの割合ですか?
- AI で時間が浮いたら、何に回すのがよいと思いますか?(支える人数・賃上げ・残業の削減など)
- 補助金で機器を入れたあと、翌年以降の費用と担当者まで考えられていますか?
全文を読む(約 5 分)
何が起きたの? — 厚労省が AI の司令塔を作った
厚生労働省は 2026 年 8 月 4 日、「ヘルスケア AX・DX 推進本部」を設けました。本部長は厚生労働大臣で、副大臣・政務官が本部長代行、事務次官らが副本部長に就きます。これまでの「医療 DX 令和ビジョン 2030」の推進チームを作り替えた組織です。
資料は本部を「ヘルスケア分野における AI 利活用と DX を戦略的・総合的に推進するための司令塔」と位置づけています。本部の下に、医務技監が室長を務める「AI for ヘルスケア成長戦略室」を置き、施策を具体化します。医薬品や医療機器の審査、介護の生産性向上の担当まで、関係する部署が 1 つの体制に入りました。
9 月 9 日には、来年度の予算要求をまとめた資料を公表しました。9 月 29 日には、医療・介護・福祉の現場で働くことをテーマにした厚生労働白書も出ています。
何を目指しているの?
資料は、日本の強みを「質の高いデータ」に置いています。CT や MRI、内視鏡の普及率が高く、質の高い画像データが大量にあります。創薬や機器開発を担う会社も多数あります。
弱みは、そのデータが使いにくいことです。学習データの形式がそろっておらず、医療機関から集めるのも簡単ではありません。そこで本部は、次の 2 つを同時に進めます。
- 研究開発: データの基盤を作り、日本発の AI 創薬や AI 医療機器を増やす
- 社会実装: 病院や介護事業所に AI を入れ、少ない人数でも回る現場にする
お金はどこに向かうの?

| 分野 | 主な事業 | 要求額 |
|---|---|---|
| 創薬・医療の基盤 | AI for Health 研究開発プラットフォーム(医療画像のデータ基盤、医療のフィジカル AI、自律ラボなど) | 153 億円+事項要求 |
| 薬事審査 | AI を前提にした審査・安全対策 | 30 億円 |
| 医療の現場 | エージェント型 AI の業務支援サービス開発 / 国立病院機構への導入 | 25 億円 / 30 億円 |
| 介護の現場 | 見守り機器・記録ソフト・インカムの導入と、事業所の協働化 | 240 億円 |
医療で新しいのは、国が「解いてほしい課題」を出し、エージェント型 AI(自分で段取りを組んで複数の作業をこなす AI)で解く事業者を支援する仕組みです。5〜10 以上の病院に実際に入れ、要件定義(何を作るかの設計図)と実証データを公開するのが条件です。採択されなかった会社も、その設計図で製品を作れます。
概算要求の段階なので、年末の予算編成で金額は変わりえます。
なぜ今なの?
白書によると、2025 年から 2040 年にかけて 85 歳以上は約 300 万人増え、15〜64 歳の働き手は約 1,100 万人減ります。今の現場は、医師約 33 万人、看護職員約 175 万人、介護職員約 213 万人が支えています。
経営も苦しくなっています。2024 年度は病院の 58.0%、介護事業所の 37.5%、障害福祉の事業所の 43.6% が赤字でした。人を増やせず、値上げもできない以上、1 人あたりで支えられる人数を増やすしかありません。
AI を入れれば解決するの?
しません。白書は、テクノロジーは今の仕事に「追加」するのではなく、仕事そのものを「作り直す」ことと一緒に進めて初めて効果が出る、とまとめています。
| 事業者 | やったこと | 成果 |
|---|---|---|
| 善光会(介護) | 業務を見える化し、裏方の仕事を削減 | 職員 1 人あたりの利用者 約 2.8 人(全国平均 約 2.0 人)、月給 約 38 万円(同 約 31.4 万円) |
| HITO 病院(医療) | スマホと ICT で業務を改革 | 看護師のケア時間を 1 日 100 分創出、残業を年 6,000 時間削減 |
| パパゲーノ(障害福祉) | 自社開発の AI 記録アプリ | 支援員の仕事 月 153 時間分をアプリが担当 |

これからの見どころは?
- 予算がどこまで残るか: 12 月の政府予算案で、介護の 240 億円と医療 AI 基盤の 153 億円が残るか
- エージェント型 AI の公募課題: どの業務が課題に選ばれ、どの会社が採択されるか
- 残る空白: 障害福祉と在宅のサービスには、今回の AI 予算で独立した項目がない。介護のロボット(フィジカル AI)も名指しされていない
※本記事は公開資料の整理であり、特定の企業や銘柄への投資を勧めるものではありません。
SYNCON の視点 — AI を「足す」か、業務を「作り直す」か
推進本部の設置で変わるのは、AI が「各部署の実験」から「省をあげた経営課題」になったことです。研究開発と現場への導入を同じ司令塔が見るので、作った AI が現場で使われない、というすれ違いを減らせます。
国は機器を配るだけでなく、小さな事業所が「束になる」ことや、公開される設計図で「使える型」を業界全体に配ることにもお金を出し始めました。ただし、料金を国が決める業界では、効率化で生まれた利益が将来の報酬改定で調整される可能性もあります(SYNCON の見立て)。差がつくのは、AI を入れた事業者ではなく、業務を作り直した事業者です。
要点まとめ
- 厚労省は 8 月に大臣直轄の「ヘルスケア AX・DX 推進本部」を設置。AI 活用の司令塔
- 目指すのは「AI 共創・協働型の創薬・医療・介護」。研究開発と現場への導入の両輪
- 来年度は AI 関連 8 事業に約 492 億円を要求。約 51% は介護向け
- 背景は 2040 年の人手不足。85 歳以上は約 300 万人増え、働き手は約 1,100 万人減る
- 白書の結論は「業務の作り直しと一体でなければ AI は効かない」
情報ソース:
・厚生労働省ヘルスケア AX・DX 推進本部「ヘルスケア AX の推進について」(2026 年 9 月 9 日)
・厚生労働省「令和 8 年版厚生労働白書」の概要(2026 年 9 月 29 日)
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