McKinsey『Rewired』第2版が語る、“AIで勝つ会社”に共通する6つの能力——GenAIではなく組織設計の話だった

DEEP SYNC

“AIが凄い”という話は、もう終わっている

McKinseyが実務書『Rewired: The McKinsey Playbook on How Leading Companies Win with Technology and AI』の第2版を、Wileyから刊行しました。副題にある通り、テーマは「Tech&AI変革で勝つ会社の実装マニュアル」。著者陣にはMcKinsey Digital共同リーダーのAlex Singla氏、Alexander Sukharevsky氏も加わり、初版よりもGenAI以後の経営実装にフォーカスした構成になっています。

初版(2023年、Lamarre/Smaje/Zemmel)は「デジタルトランスフォーメーションの実務マニュアル」でしたが、2026年版は明らかにトーンが違います。「AIの凄さを語るフェーズは終わった。勝っている会社が何をしているかを見よう」というのが全編を貫くメッセージです。

McKinseyが断言する「勝っている会社」の定義

本書の序盤で、McKinseyは次のように整理します。

「AIで本当に成功している企業は、何か違うことをしている。彼らはAIシステムを設計し直し、製品・サービス・中核業務プロセスを再形成している。そしてその過程で、本物の競争優位を生み出している。要するに、AIで勝つために“rewired(再配線)”されているのだ」

重要なのは、「良いAIを持っているから勝つ」のではなく「組織が再配線されているから勝つ」という主張です。同書によれば、GenAIで2024年のP&Lに明確な価値を出せている企業は、全体の約10%に過ぎません。残りの90%は「千のパイロット(pilot)で死ぬ(death by a thousand pilots)」状態——つまり、社内のあちこちで小さな実証実験ばかりを繰り返して、成果が1円も上がっていない、という状態です。心当たりのある経営者は多いはずです。

“Rewire”すべき6つの能力(Capabilities)

McKinseyは、勝っている企業が共通して備えている「6つの能力」を提示します。これはAIを導入するためのチェックリストではなく、会社そのものを組み直すための設計図です。非エンジニア経営層向けに、1つずつ翻訳します。

① 変革ロードマップ(Transformation Roadmap)

「全社的にDXをやる」ではなく、「どのドメイン(業務領域)で、どの問題を、どこまで変えるか」を最初に決める。ここを曖昧にしたまま着手するから、千のパイロットで死ぬ。まず“戦う領域”を1〜2個に絞る、という意思決定が起点です。

② 人材ベンチ(Talent Bench)

高度なエンジニアを数人外部から雇う、では変革は起きません。必要なのは「社内の数百〜数千人が、AI時代の業務フローで動ける状態」を作ること。特定のスター社員ではなく、組織の層を厚くする投資です。

③ 俊敏な運営モデル(Operating Model that moves at pace)

初版でも強調されていた「プロダクトチーム制」「アジャイル組織」を、さらに徹底する。稟議5段階、役員承認3ヶ月、というスピード感の会社は、どんなAIを入れても勝てない、というのが本書の一貫した主張です。

④ 分散型テクノロジー環境(Distributed, flexible tech environment)

中央のIT部門がすべてのシステムを管理する旧世代モデルではなく、各事業部門が自律的にテクノロジーを組み立てられる状態を作る。ただし「野良ツール」を許容するのではなく、共通のガードレール(セキュリティ・データ基盤)を敷いた上で、現場に自由度を渡す、という設計です。

⑤ データの組織内埋め込み(Data embedded throughout)

「データ基盤を整える」という表現では足りません。データが、業務プロセスそのものに溶け込んでいる状態を目指す。経営会議の議論が、誰かのスライドではなく、ダッシュボードのリアルタイム数値で始まる——これが“埋め込まれた”状態です。

⑥ スケールと定着(Adoption & Scaling)

最後にして最難関。パイロットで出た成果を、全社で使われる状態に持っていく力。ここが弱い企業は、素晴らしいPoCを量産しては、誰にも使われずに終わる。McKinseyは、この「スケール力」こそが6能力の中で最も差がつくポイントだと指摘しています。

日本の経営層に刺さるであろう一節

本書の示唆の中で、特に日本の経営層に刺さるのは次の考え方です。

「CEOの直属部下のうち、何人がテック・リテラシーを持っているか。経営会議でAIの話題が出たときに、全員が一斉にCIO/CDO/情シス部長の方を向く会社は、まだ“re-wired”されていない」

これを逆に言えば、AIで勝っている会社では、営業担当役員も、財務責任者も、人事責任者も、「うちの部門のP&Lに、AIがどう効いているか」を自分の言葉で語れるようになっている、ということです。

SYNCONの視点:日本の中小企業にとっての“現実解”

『Rewired』は原則として大企業向けに書かれていますが、中小企業や管理職にとっての示唆は明確です。「AIを試す」ではなく「AIで業務の1フローを完全に置き換える」に思考を切り替えること。例えば営業部門なら、「ChatGPTで提案書をたまに書く」ではなく、「商談議事録の作成から顧客データ入力、次回提案資料のドラフト生成までを、AIが担う運用フローに切り替える」。1つの業務フローを完全に再配線する——この1点だけでも、千のパイロットで死ぬ90%の側から、10%の側に移れます。

まずは自社の業務フローを1つ選び、「この1本だけを完全にAIで組み直したら、どこまで変わるか」を考えてみてください。それが、日本企業にとっての“rewire”の第一歩です。

Status: Synced.

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