オンライン面接の画面に映っている人物が、本当に応募者本人とは限らなくなった。9 月 10 日、都内企業の中途採用のオンライン面接に「AI とみられる応募者」が現れたという投稿が X で話題になり、ITmedia ビジネスオンラインが採用側の対策を整理している。米調査会社ガートナー(Gartner)の調査では、求職者の 39% が応募の過程で AI を使い、6% が他人になりすまして面接を受けるか、他人に自分のふりをさせた経験があると答えた。対策の本命として挙がる「構造化面接」は、なりすましを見抜く道具である以前に、採用の当たり外れを減らす基本手法でもある。
何が起きたか
話題になった事例では、応募者は流暢に経歴を語るものの、声と口の動きが合わず、視線が不自然で、会話に独特の間があった。面接官が AI の使用を尋ねると、応募者は「AI は使っていない、自分が直接話している」と答えたという。手口として想定されるのは三つある。生成 AI にその場で回答を考えさせて読み上げる、AI で声を変える、そして AI で顔や声を差し替えた偽装映像(ディープフェイク)で映像上の顔を別人に置き換え、本人ではない誰かが面接に応じる、という形だ。
これは日本だけの話ではない。米連邦捜査局(FBI)は 2022 年 6 月 28 日の時点で、偽装映像と盗んだ個人情報を使って在宅勤務の職に応募する事例が増えていると公表している。狙われたのは情報システムやプログラミング、データベース関連の職で、その中には顧客の個人情報や財務データ、社内システムに触れられる職務が含まれていた。採用の失敗というより、社内への侵入経路として面接が使われている。
規模感と、見破り方の二段構え
ガートナーは 2028 年までに世界の応募者プロフィールの 4 分の 1 が偽物になると予測している。米 HR Dive によれば、この予測の元になった調査は 3,000 人の求職者を対象にしたもので、同社の Jamie Kohn 氏は「応募者の本当の能力、場合によっては本人性を見極めることが難しくなっている」と述べた。同じ調査では 62% の求職者が、対面の面接が必須であればむしろ応募意欲が高まると答えている。
ITmedia の記事は見破り方を二段に分けている。一段目は映像と音声の違和感を確かめる方法で、FBI が示す手順を紹介している。カメラを常にオンにする、背景を隠させない、今どこにいるかを尋ねる、顔の前で手を振ってもらう。顔だけを差し替えている場合、手や物が顔に重なると映像処理が崩れやすいからだ。二段目が質問の設計である。「志望動機は」「あなたの強みは」といった定型の質問は、生成 AI でもそれらしい答えを作りやすい。そこで、過去の行動を具体的に掘り下げる「行動面接」に切り替える。一番困ったことは何か、自分は何をどこまで担当したか、なぜその判断をしたのか、他の選択肢は無かったのか。ひとつの事実に質問を重ねると、用意された答えだけではごまかしにくくなる。
経営層への含意 — 構造化面接は「対策」ではなく「基本」
ここで出てくるのが構造化面接だ。面接官が思いつきで質問するのではなく、職務に必要な能力に基づいて質問項目と評価基準をあらかじめ決め、すべての応募者に同じ条件で確認していく手法を指す。採用手法の妥当性を検証した 2022 年の研究でも、構造化面接は入社後の成果を予測する力が最も高いとされている。つまり、なりすまし対策として導入する前から、これは採用の精度そのものを上げる方法だった。
記事が勧めるのは、どの観点をどこまで掘り下げるかを評価シートとして先に決めておくことだ。そうすると AI による偽装を見抜きやすくなると同時に、面接官ごとのぶれが減り、公正で精度の高い判断ができる。加えて記事は、応募者が AI を使ったこと自体を問題視していない。AI に何をどこまでさせたのかを掘り下げること自体が、その人の業務スキルと使いこなしの度合いを知る材料になる、という立場だ。
SYNCON の視点 — 印象で採っている会社ほど、なりすましに弱い
なりすまし応募者が最初に狙うのは、面接が「感じの良さ」で決まる会社だろう。定型の質問に流暢に答えれば通る面接は、生成 AI にとって最も攻略しやすい形式でもある。逆に、質問項目と評価基準が先に決まっていて、ひとつの経験を何度も掘り下げる面接は、偽装する側の負担が大きい。防御力と採用精度が同じ設計から生まれるのは、偶然ではない。
多くの中堅企業では、面接の質問は各面接官の裁量に任され、評価は「一緒に働けそうか」という印象に集約されがちだ。そこに構造を入れるのは人事の作業ではなく、どの能力を採るのかを決める経営の仕事である。来週の経営会議で問うべきは、「うちの面接で何を聞くかは誰が決めているか」、そして「同じ応募者を別の面接官が見ても、同じ結論になるか」だ。
要点まとめ
- 9 月 10 日、都内企業のオンライン面接に AI とみられる応募者が現れたという投稿が話題になった。声と口の動きのずれ、不自然な視線、独特の間が特徴だった
- ガートナーの調査では求職者の 39% が応募過程で AI を使い、6% がなりすまし面接に関与。2028 年には応募者プロフィールの 4 分の 1 が偽物になると予測
- FBI は 2022 年の時点で、偽装映像と盗んだ個人情報による在宅職への応募を公表。顧客情報や財務データに触れる職が狙われた
- 見破り方は二段構え。映像の違和感を確かめる手順と、過去の行動を掘り下げる行動面接
- 構造化面接は質問項目と評価基準を先に決め、全員に同じ条件で聞く手法。入社後の成果を予測する力が最も高いとされる
- 問うべきは、面接で何を聞くかを誰が決めているか。印象で採る会社ほど、なりすましに弱い
情報ソース:
・ITmedia ビジネスオンライン「『AIなりすまし面接』が現実に 求められる『構造化面接』と採用リテラシー」(2026 年 09 月 18 日)
・FBI Internet Crime Complaint Center「Deepfakes and Stolen PII Utilized to Apply for Remote Work Positions」(2022 年 06 月 28 日)
・HR Dive「By 2028, 1 in 4 candidate profiles will be fake, Gartner predicts」(2025 年 08 月 08 日)
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