M&A に AI が入ると、何で差がつくのか — ベインの実践から考える

DEEP SYNC
AI が資料をまとめ、人は握手で合意する M&A のイメージ(AI で生成)

M&A(企業の合併・買収)の現場で、AI の使い方が一気に広がっています。外資系コンサルのベイン・アンド・カンパニーは、機密情報を囲い込んだ自社の AI 環境で、買収先探しから買収後の統合まで AI を使っています。調べる・まとめる・下書きする仕事が速くなった今、差はどこでつくのでしょうか。

30 秒でわかるポイント

  • ベインは OpenAI・Anthropic と提携し、機密情報を囲い込んだ自社の AI 環境で、M&A の準備の仕事に AI を使っています。
  • ベインの調査では、M&A で AI ツールを使う人は 2025 年に 45% になり、前年の 2 倍を超えました。
  • 大手会計事務所(Big4)は M&A 向けの AI を打ち出し、投資銀行は若手の資料づくりを AI に移し始めています。
  • 一方でベインは、関係者の足並みをそろえる、重要な判断を下すといった仕事は、AI がどれだけ速くても時間がかかると書いています。

1 分でわかる解説

ベインのレポートには、買収先探し、公開情報からの相手の推定、統合の準備まで、AI で下ごしらえが速くなった事例が並びます。欧州の銀行は、統合の準備にかかる時間を 25% 短くしました。大手会計事務所(Big4)は M&A 向けの AI を打ち出し、投資銀行は若手の資料づくりを AI に移し始めています。

出典: Bain & Company「M&A Capability for a New Era」(2026 年 1 月 27 日)。いずれもベインが紹介した事例で、企業名は明かされていません。

速くなったのは、調べる・まとめる・下書きする仕事です。そのぶん人には、「何を問うか」と「どう決めて、どう動かすか」が残ります。

ここから考えたい 3 つの問い

  • 過去の判断やつまずきの記録は、AI に読ませられる形で残っていますか?
  • 求人情報や口コミなどの公開情報から、自分たちの人員やコストはどこまで推定できてしまうでしょうか?
  • AI で浮いた時間は、人と話す・決める・動かす仕事に回っていますか?
全文を読む(約 6 分)

※元の記事(MARR Online、2026 年 9 月 29 日)の後半は有料会員向けです。本稿は、無料で読める部分と、ベインなど各社が公開している資料をもとにまとめています。

ベインは何をしているの?

M&A 専門誌「MARR Online」は 2026 年 9 月 29 日、ベインのパートナー、呉文翔氏へのインタビューを載せました。呉氏は東京オフィスで、投資ファンド向けの支援のリーダーの 1 人で、M&A 支援のリーダーも務めています。

記事によると、ベインは OpenAI(ChatGPT)と Anthropic(Claude)とパートナーシップ契約を結んでいます。そのうえで、機密性の高い情報を「リングフェンス」した自社の AI 環境をつくりました。リングフェンスとは、アクセスできる人を厳しく限った囲いのことです。

そこで社内のナレッジと M&A 支援の知見を使い、仮説づくりや情報整理を手伝う全社向けの AI ツールを開発しています。柱の 1 つが M&A 支援です。呉氏は、他社と比べても買収前の調査(デュー・ディリジェンス)や投資戦略づくりの支援実績が豊富なので、比較的強力なツールになっていると思う、と話しています。

OpenAI と Anthropic の AI を、機密情報を囲い込んだ自社の環境で動かし、買収先探しから統合まで使うベインの仕組み
MARR Online(2026 年 9 月 29 日)の無料部分をもとに SYNCON が作図

M&A で AI はどれくらい使われているの?

ベインは、世界の M&A 担当者 300 人超に聞いた調査を、レポートで紹介しています。

レポート M&A に AI を使っている人の割合
2025 年 2 月公開(生成 AI) 21%(2023 年は 16%)
2026 年 1 月公開(AI ツール、2025 年の利用) 45%(前年の 2 倍超)

約 3 分の 1 は、AI を仕組みとして使っているか、進め方を AI 前提で作り直しています。いちばん多い使い道は今も買収先探しと調査ですが、取引の実行や買収後の統合にも広がってきました。

AI はどの工程を速くしたの?

ベインが 2026 年 1 月に公開したレポートの事例を、工程ごとに並べます。企業名は明かされていません。

工程 AI を使った事例 結果
買収先探し インドの医療企業が、AI で広い範囲を探し続け、候補のリストを自動で更新 欲しい案件を取りに行きやすい立場になった
外からの調査 メディア企業が、LinkedIn などの公開情報から相手の人員とコストを推定 買収後、予測は実績の 9 割の精度に収まった
統合効果の設計 原材料を大量に買う 2 社が、調達などのデータを AI に投入(従来は 12 か月超) 約 2 か月で計画にし、削減の見込みは 1 億ドル。従来のやり方より約 20% 多い
統合の準備 欧州の銀行が、統合の方針・チームの役割書・工程表を AI で下書き かかる時間を 25% 短縮
社内外への伝え方 専門サービス企業が、AI でつくった「仮想の社員・顧客」で伝える内容を確かめた 買収から 3 か月で両社の足並みがそろった

欧州の銀行の内訳は、13 チーム分の役割書の下書きで約 80 時間、工程表づくりで約 60 時間などです。どれも「白紙から下書きをつくる」仕事で、決めるための材料づくりが速くなっています。

AI が速くても、時間がかかることは?

ベインは同じレポートで、AI がどれだけ速くても時間が要る仕事を挙げています。関係者の足並みをそろえること、重要な判断を下すこと、組織を動かすこと、変化を根づかせることです。完璧な情報を渡されても、人には受け止める時間が要る、とも書いています。

ほかの大手はどう使っているの?

各社が公表した内容を並べます。EY も M&A の調査向けの「Diligence Edge」を出しています。

会社 取り組み M&A での使い道 公表された数字
デロイト(Big4) 「M&A Platform」(2026 年 9 月 22 日発表) 戦略から調査、取引の設計、統合まで 1,000 件超の顧客案件で利用
PwC(Big4) 「Harvey, powered by PwC」(2025 年 7 月) 大量の資料を読み、問題点を洗い出した調査報告の初稿をつくる 1 つの手順が 1 万回超使われた
KPMG(Big4) スイスの「AiDa」。米国では AI 調査の Wokelo に出資 財務の調査で、傾向とリスクを洗い出す 初期のデータ確認の時間を 80% 短縮(1 事例)
ゴールドマン・サックス(投資銀行) 「GS AI Assistant」(2025 年 6 月に全社へ) 資料の要約、初稿づくり、データ分析 全社展開の前に 1 万人へ先に配った
JP モルガン(投資銀行) 世界の投資銀行部門で AI ツールの導入を始めた段階(2026 年 5 月) 提案資料(ピッチブック)などの作成 それらしい提案資料を約 30 秒でつくる社内デモ(報道)

※数字は各社の発表や報道によるもので、第三者が確かめたものではありません。

若手の仕事はどう変わるの?

AI がまず代わるのは、若手の資料づくりです。

JP モルガンで報じられた、管理職 1 人あたりの若手を 6 人から 4 人に減らす検討案
eFinancialCareers が引用した CNBC の報道(2025 年 10 月)をもとに SYNCON が作図
  • JP モルガン: 管理職 1 人あたりの若手を 6 人から 4 人に減らす案が議論されていると報じられました(CNBC、2025 年 10 月)。
  • ゴールドマン・サックス: ソロモン CEO は 2025 年 1 月、AI が新規上場の目論見書の 95% を数分で下書きできると述べました(Fortune)。AI を軸にした業務改革「OneGS 3.0」では、人員の伸びを抑える方針です(Banking Dive、2025 年 10 月)。
  • マッキンゼー: 社員数は 2023 年末の 4 万 5,000 人超から約 4 万人に減りました(Fortune、2025 年 6 月)。

SYNCON の視点 — AI に何を読ませ、浮いた時間をどこに使うか

以下は、上の事実をもとにした SYNCON 編集部の見方です。

1. 差がつきやすいのは「AI に何を読ませるか」です。使う AI そのものは各社で大きく変わらず、強みは過去の案件から体系化した知見です。中堅・中小企業でも、過去に検討した案件や、買収後につまずいた点の記録は、そのまま AI の材料になります。

2. 買い手も売り手も「外から見られる」前提になりつつあります。公開情報から人員やコストを推定するのは、もう大手だけの技術ではありません。売り手の側も、求人情報や口コミまで含めて読まれる、と考えておくと備えやすくなります。

3. 人の評価軸は「つくる速さ」から「問う力と動かす力」へ移りそうです。投資銀行で若手の比率を下げる案が報じられたのは、資料づくりを AI が担えるようになってきたためと見られます。一方で、相手の経営者との信頼づくりや、統合後に現場を動かす仕事は、AI が速くても時間がかかります。事業承継型の M&A が多い日本では、ここが勝負どころになりそうです。

注意点:本稿の数字の多くは、各社が公表した「うまくいった事例」で、平均的な効果ではありません。

情報ソース:
・MARR Online「AI が変える『M&A の競争軸』と『人材の評価軸』」(2026 年 9 月 29 日)
・Bain & Company「M&A Capability for a New Era」(2026 年 1 月 27 日)
・Bain & Company「Generative AI in M&A」(2025 年 2 月 4 日)
・Deloitte「Deloitte announces M&A Platform」(2026 年 9 月 22 日)
・PwC「AI-powered deals」(2025 年 7 月)
・KPMG スイス「AiDa: AI-enabled Due Diligence」/ KPMG「KPMG invests in Wokelo」(2024 年 10 月 1 日)
・Fortune(マッキンゼー、2025 年 6 月 2 日)/ Fortune(ゴールドマン・サックス、2025 年 1 月 17 日)
・Fox Business(ゴールドマン・サックス、2025 年 6 月 23 日)/ Banking Dive(2025 年 10 月 15 日)
・eFinancialCareers(CNBC の報道を引用、2025 年 10 月 3 日)/ Kitco(ロイター配信、2026 年 5 月 21 日)
・EY「Diligence Edge」

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