医療検査機器のシスメックスRA で、製造部門の社員が自ら「不良解析エージェント」という AI を作っています。過去の不具合の記録を調べ、不具合の兆しを探す AI です。
大事なのは AI の賢さより、社員が自分で AI を作れる土台を会社が先に用意したことです。誰にどの道具を渡し、どこで成果を見せ合うか、その線引きが問われます。
30 秒でわかるポイント
- シスメックスRA の製造部門が、不良解析の AI を自ら開発中
- 土台は Microsoft Copilot を使った、社内の情報だけを扱う閉じた環境
- 希望する社員が社内イベントでアプリを作り、成果を報告会で共有
1 分でわかる解説
不具合が起きたとき、これまでは専任の担当者が症状から過去の記録を調べ、経験と知識で原因を探していました。この調べものと、ベテランの知恵の受け渡しを AI に手伝わせる試みです。
土台は会社が用意しています。社内の情報を扱える閉じた AI 環境を全員に、AI を自作する道具を必要な人に渡しています。
| 会社が用意したもの | 現場がすること |
|---|---|
| 社内の情報だけを扱う閉じた AI 環境 | 日々の仕事で AI を使う |
| AI やアプリを自作する道具(必要な人に) | 自分の仕事に合う AI を作る |
| 社内イベントと報告会 | 作ったものを見せ合い、広げる |
ここから考えたい 3 つの問い
- 社員が社内の情報を安心して AI に渡せる場所は、用意されていますか?
- AI を自作する道具を、誰に渡すかの基準はありますか?
- 現場で作られた AI を、ほかの部署が知る機会はありますか?
全文を読む(約 4 分)
何が起きたの? — 製造現場から生まれた AI
シスメックスRA は、血液や尿などを調べる検査機器と、その周辺装置を開発・生産する会社です。親会社はシスメックスです。
同社は新工場の稼働に合わせて、工場内の物流を自動化しました。部品を集める作業(ピッキング)の生産効率は 2 倍になっています。
次の課題はデータです。執行役員の小澤 洋輔氏は「十分にデータを活用し切れていないのが実態です」と話します。2026 年度からは生産管理部門に、データ活用を進める専門の組織を置きました。
そこで出てきたのが、製造部門が開発を進める「不良解析エージェント」です。指示を待たずに自分で段取りを組んで作業を進める AI(AI エージェント)を、社員が自ら作る動きの一つです。経理部門でも「会計エージェント」を作り、検証を進めています。
現場の社員は、どうやって AI を作れるの?
鍵は、シスメックスグループが整えた環境です。中身を並べると次のとおりです。
| 用意されたもの | 中身 |
|---|---|
| 閉じた AI 環境 | Microsoft Copilot をもとにした、社内の情報を扱える環境 |
| 自作の道具 | AI を自作する Microsoft の道具(Copilot Studio)を、必要な社員に提供 |
| 学ぶ場 | 「スマートプロセスワーキング」。希望者が短期集中の開発イベント(ハッカソン)などでアプリを作る |
| 見せ合う場 | 成果は報告会などで共有 |
アプリ作りには、プログラムをほとんど書かずに業務アプリを作れる Microsoft の道具(Power Apps)を使います。シスメックスRA からも複数の部署から、毎年何人かが参加しています。
その結果、簡単なアプリなら自分で作れる社員が増えてきたといいます。不良解析エージェントは、こうした下地の上に出てきた取り組みです。
この AI が狙うのは、製造工程の膨大なデータに潜む小さな変化や傾向です。人が確かめにくいデータ同士の関係から、不具合の兆しを探らせようとしています。
仕事や会社はどう変わるの?
社長の尾黒 昌彦氏は、AI の役目を「勘・コツ・経験が必要な部分で、人間に示唆を与える」ものと捉えています。人の判断を置き換えるのではなく、判断の材料を差し出す役です。
| これまで | これから | |
|---|---|---|
| 過去の不具合を調べる | 専任の担当者が記録を当たる | AI が過去の記録を調べ、候補を出す |
| ベテランの知恵 | 人から人へ、時間をかけて伝える | AI を通じて引き出せる形にしていく |
| AI を作る人 | 専門の部署や外部の会社 | 仕事を知る現場の社員も加わる |
小澤氏は、AI を「カイゼン」の道具の一つとして、ほかの手法と組み合わせたいと話しています。AI だけを特別扱いせず、現場の改善活動の中に置く考え方です。
記事によれば、同社のデータ活用はまだ本格化の途上です。不良解析エージェントも開発中で、効果の数字は示されていません。
SYNCON の視点 — 現場が作る AI の土台
不具合の兆しは、毎日その工程を見ている人がいちばんよく知っています。だから現場の社員が自分で AI を作れると、題材選びが速くなります。専門の部署に頼んで順番を待つ必要がないからです。
ただ、シスメックスRA の例で先に整っていたのは、AI そのものではなく土台です。社内の情報を外に出さずに扱える環境、自作の道具を渡す範囲、学ぶ場、見せ合う場。これらがそろって、初めて現場が安心して手を動かせます。
自社で決めるべきことは、まず線引きです。どの情報までなら AI に渡してよいか。自作の道具を誰に渡すか。作った AI を誰が見て、ほかの部署へ広げるか。尾黒氏のいう「まずはやってみる」を後押しするには、この線を会社が先に引いておく必要があります。
要点まとめ
- シスメックスRA の製造部門が、不具合の兆しを探す「不良解析エージェント」を開発中
- 経理部門でも「会計エージェント」を作り、検証を進めている
- 土台は Microsoft Copilot をもとにした閉じた AI 環境と、必要な社員への Copilot Studio の提供
- 希望者がハッカソンなどでアプリを作り、成果を報告会で共有する仕組みがある
- 工場内の物流の自動化でピッキングの効率は 2 倍。データ活用はこれからで、2026 年度に専門組織を新設
- 現場が AI を作るには、情報の扱い・道具を渡す範囲・共有の場の線引きを先に決める
情報ソース:
・ビジネス+IT「【単独】エンジニア不要…シスメックス子会社の製造現場発「不良解析AI」爆誕の裏側」(2026 年 10 月 19 日)
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