AI による AI の改善で完遂率 34% → 53% — 業務 AI は「育て方」で差がつく時代に

DEEP SYNC
作業台の上で小さなロボットが別のロボットをレンチで手直しし、そばで人が旗を持って見守るイラスト(AI で生成)

AI に仕事を任せたあと、その AI の働き方を直す作業まで AI に任せる。そんな研究の成果を、KDDI グループの ELYZA(イライザ)が 2026 年 10 月 2 日に発表しました。

30 秒でわかるポイント

  • ELYZA は、AI が AI の開発や改善を担う研究の専門組織をつくりました。
  • 問い合わせ対応の実験では、AI が別の AI の動かし方を自動で手直しし、やり切れた割合が 34.3% から 52.9% に上がりました。
  • 背景には、海外の最先端 AI が急に使えなくなるリスクがあります。誰でも使える公開 AI を自力で磨く力を備える狙いです。

1 分でわかる解説

業務で使う AI の出来は、AI 本体だけでなく、手順や道具の使い方を決める「動かし方の仕組み」にも左右されます。ELYZA の実験は、この仕組みの手直しを AI に任せたものです。

AI は「試す、失敗の原因を探す、直す、採点し直す」を何度もくり返しました。精度と費用の両方を目標にすると、精度をほぼ保ったまま、AI を動かす費用を 67% 減らせたといいます。

ただし ELYZA 自身、AI が自分を改善し続ける段階にはまだ至っていないとしています。

ここから考えたい 3 つの問い

  • AI に任せた仕事の「うまくいった・失敗した」を、いま誰がどんな基準で判定していますか?
  • 業務の手順や判断の基準は、AI にも渡せるくらい言葉になっていますか?
  • いま使っている AI が明日使えなくなったら、どの業務が止まりますか?
全文を読む(約 5 分)

何が起きたの?

ELYZA は 10 月 2 日、研究組織「ELYZA RSI Research」を設立すると発表しました。テーマは、AI が自分の能力や開発の手順をくり返し改善し、その成果を次の開発に生かす「再帰的自己改善(RSI)」です。同時に、これまでの研究成果を公開しています。

公開したもの 中身
日本語の AI モデル 2 種 国立情報学研究所の研究センターが開発した公開モデル「llm-jp-4」を、追加で鍛えたもの。商用利用できる形で公開。人の作業は 1〜2 人日ほどで、学習から評価まで回せた
問い合わせ業務の採点用問題集 手順の選び方、手順どおりの処理、道具の使い方、最終結果を段階ごとに採点できる。同日に公開
動かし方の自動改善の実験結果 AI が別の AI の動かし方を手直しし、成績を上げた(数字は後述)

あわせて、この研究の基盤を使い、業界や業務に特化した AI をつくる事業も始めます。第一弾は、音声で応対する AI「ELYZA Voice Agent」です。

「AI が AI を改善する」とは、どういうこと?

業務で使う AI は、大きく 3 つの部品でできています。AI 本体(基盤モデル)、動かし方の仕組み(ハーネス)、出来を採点する仕組み(評価)です。これまでは人間の研究者が、採点結果を見ながら本体や仕組みを直してきました。

ELYZA は、この「直す」役を AI に任せる度合いを 4 段階で整理しています。

段階 人と AI の役割
1. 人だけ 人の研究者が開発と改善を回す
2. 人と AI の共同作業 AI が出した改善案を、人がその都度判断する
3. AI が中心 個々の改善は AI に任せ、人は成果の評価と監督に回る
4. AI だけで回す 人が目的と制約を決め、その範囲で AI が改善を回し続ける

ITmedia ビジネスオンラインの記事によると、ELYZA の研究は 3 段階目に達し、AI の動かし方をほぼ全自動で手直しできたといいます。

どれくらい良くなったの?

改善役の AI は、問い合わせ対応をやらせては失敗の原因を探し、直して採点し直す流れをくり返しました。

試す、原因を探す、直す、採点し直すの 4 つを AI がくり返し、人は目的と採点の基準を決める流れの図
ELYZA の発表をもとに SYNCON が作図
実験 結果
開発系の採点用問題集(2 種類) 成功率がそれぞれ 14.4 ポイント、27.2 ポイント上がった
問い合わせ対応(改善に使っていないテスト問題) 完遂率が 34.3% から 52.9% に上がった
問い合わせ対応(精度と費用の両方を目標) 精度をほぼ保ったまま、AI を動かす費用が 67% 減った

いずれも ELYZA 自身の実験結果です。費用 67% 減は、精度だけを目標に自動改善した場合との比較です。改善に使った 60 件の問題では、成功率が 48.3% から 75% に上がったと ITmedia は伝えています。

ITmedia の記事は、A 案で行き詰まれば B 案、それも効かなければ C 案と、改善策を速く回せる点が要だと伝えています。

なぜ今、この研究なの?

曽根岡侑也 CEO は、要約のような単純な作業では、AI の性能は 2024 年ごろに頭打ちになったと話しています。競争の中心は、人なら数時間かかる複数工程の仕事などに移っています。新モデルの登場も、2025 年までの 3 か月ごとから、今は 1 か月ごとになったと述べました。

もう一つの理由が、海外の最先端 AI が使えなくなるリスクです。米 Anthropic は 2026 年 6 月 12 日、米政府から輸出管理の指示を受けたと発表しました。外国籍の人に Fable 5 と Mythos 5 を使わせないよう求める指示で、Anthropic はこれを守るため、2 つのモデルをすべての利用者向けに止めました。6 月 30 日に指示は解除され、Fable 5 は 7 月 1 日から再び世界中で使えるようになっています。

曽根岡 CEO は、日本の備え方は 2 つあると話しています。一つは、日本で一から最先端の AI をつくる道です。もう一つは、無料で商用利用もできる公開モデルを、AI による改善で磨き上げる道です。新組織は、こちらへの備えにあたります。

人の仕事はどう変わるの?

ELYZA は今後、パートナーと組んで業務に特化した AI をつくるとしています。その際、業務ごとの手順、判断の基準、「どうなれば完了か」を採点の基準として定めるといいます。

4 段階の整理でも、最後まで人に残るのは「目的と制約を決める」役割です。AI の手直しを人が一つずつ行う仕事は減り、何を目指し、何をさせないかを決める仕事の比重が増えるかもしれません。

安全面について ELYZA は、想定外の動きや悪用のリスクを踏まえ、安全性を重要な研究課題の一つに位置づけています。曽根岡 CEO は、隔離した環境で動かす、監視の仕組みを整える、止められるようにする、の 3 つを挙げています。

SYNCON の視点 — 差がつく場所は「どう採点するか」へ

今回の数字で目を引くのは、AI 本体を替えずに、動かし方の手直しだけで成績が上がった点です。AI 選びに目が向きがちですが、差がつく場所は仕組みの磨き込みに移りつつあるのかもしれません。

その磨き込みを AI に任せるには、採点の基準が要ります。業務の手順や「よい対応とは何か」を言葉にしてある職場ほど、こうした技術の恩恵を受けやすくなりそうです。

使っている AI が外部の事情で止まりうることも、6 月の出来事で現実味を帯びました。主力の AI とは別に、公開モデルでも最低限の業務が回るかを確かめておく、という備え方も考えられます。ただし今回の数字は ELYZA 自身の実験で、同じ効果が出るかは試してみないと分かりません。

未確認の点:「性能は 2024 年ごろに頭打ち」は、ELYZA が示した図にもとづく見方で、ほかの調査では確かめていません。新組織の人数・予算、ELYZA Voice Agent の料金、実験結果の第三者による検証は確認できていません。

情報ソース:
・ELYZA「ELYZA、「AIによるAI開発」の研究を推進する「ELYZA RSI Research」を設立」(2026 年 10 月 2 日)
・ITmedia ビジネスオンライン「主戦場が変わった――“AIによるAI開発”現実に」(荒岡瑛一郎、2026 年 10 月 6 日)
・Anthropic「Statement on the US government directive to suspend access to Fable 5 and Mythos 5」(2026 年 6 月 12 日)
・Anthropic「Redeploying Fable 5」(2026 年 6 月 30 日)

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