X で話題になっていた投稿を、SYNCON 編集部が深掘りします。公認会計士・税理士の大野修平氏(@Shuhei_Ohno)は、「AI にデータを渡すと漏洩しますよね?」という質問に、税理士の団体がまとめた新しい指針は「そういう話ではない」と答えました。
問題は攻撃より前の、どのプランとどの契約で入れるかだという指摘です。顧客の情報を預かる会社なら、業種を問わず当てはまります。
30 秒でわかるポイント
- 日本税理士会連合会(日税連)は 2026 年 9 月、「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドライン(Ver1.0)」を策定しました
- 個人情報保護委員会は、同意なく入力した個人データが学習などに使われると「違反することとなる可能性がある」としています
- 大野氏は、契約で管理できる AI なら、外注先やクラウド会計と同じ「委託先の管理」として考えられると読んでいます
1 分でわかる解説
大野氏の指摘の核心は、漏洩の心配を「攻撃されるか」と「どこに預けるか」に分けたことです。無料版や個人向けのプランでは、入れた内容が提供元の学習などに使われる場合があります。
そうなれば、攻撃が無くても、預かった情報を外に出したのと同じ問題が生じえます。逆に、扱いを契約で決められる相手なら、これまでの外注管理の延長で判断できます。
ここから考えたい 3 つの問い
- 身近な職場で、無料版の AI に顧客の名前や数字を入れている人はいませんか?
- 使っている AI の契約に、入力を学習に使わないと書かれているか、確かめたことはありますか?
- 外注先の担当者が個人の AI を使っていたら、気づける仕組みはありますか?
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「漏洩」は、攻撃されたときだけの話なの?
大野修平氏は公認会計士・税理士で、セブンセンス税理士法人に所属しています。著書に『税理士のための生成AI活用アイディア』があります。
その大野氏が、いまだによく聞かれる質問があるといいます。「AI にデータを渡すと、サイバー攻撃などで漏洩しますよね?」というものです。
大野氏の答えは、日税連の指針はそういう話ではない、というものでした。無料版や個人向けプランに顧問先の情報を入れると、AI の提供元の学習などに使われる可能性があります。この場合、攻撃の有無より前に、入力したこと自体が問題になるという指摘です。
税理士法 38 条は、正当な理由なく、業務で知った秘密を「他に洩らし」てはならないと定めています。個人情報保護法も、本人の同意なく個人データを第三者に渡すことを原則として禁じています(27 条)。
なお、個人情報保護委員会の言い方は「違反することとなる可能性がある」で、入れた瞬間に違反と言い切ってはいません。
無料版と法人向けでは、何が違うの?
個人情報保護委員会は 2023 年 6 月 2 日、生成 AI サービスの利用について注意を促しました。会社が本人の同意なく個人データを入力し、それが応答の出力以外の目的で扱われると、法律に違反する可能性があるとしています。
そのうえで、提供元がそのデータを機械学習に使わないことなどを「十分に確認すること」を求めています。確かめるべきは、プランの名前より、契約と設定の中身です。
| 確かめること | どこで確かめるか |
|---|---|
| 入力が学習や機能改善に使われないか | 利用規約、データの扱いを定める契約(DPA)、管理画面の設定 |
| 誰のアカウントで使っているか | 会社が承認したアカウントか、社員個人のアカウントか |
| データがどこで処理されるか | 契約条件(国外での処理を含む) |
| 条件が変わっていないか | 契約や安全対策の変更を定期的に見直す |
解説記事によると、DPA は利用規約に組み込まれている場合もあります。別の契約書が無いから無い、とは限りません。
外注先に預けるのと、同じと考えてよいの?
大野氏の投稿でいちばん効いているのは、ここです。記帳代行の外注先やクラウド会計に資料を預けるのと同じで、契約で管理できる相手に渡すことは「洩らす」に当たらない、という整理です。
個人情報保護法にも、同じ方向の仕組みがあります。仕事を任せる相手(委託先)に渡す場合は、第三者への提供に当たりません(27 条 5 項 1 号)。その代わり、任せた側は委託先を「必要かつ適切」に監督する義務を負います(25 条)。
大野氏は、サイバー攻撃の心配もクラウド会計やクラウドストレージと同じ委託先の管理の話で、AI だけの特別な問題ではないと述べています。AI を新しい脅威として遠ざけず、すでにある外注管理の枠に入れる考え方です。
ただし大野氏自身も慎重です。守秘義務との関係は解釈がまだ固まっていないとして、顧問先から書面で同意をもらっておくのが安心だ、と個人の意見を添えています。
日税連の指針には、何が書かれているの?
日税連のデジタル・システム委員会は 2026 年 9 月に指針を策定し、9 月 30 日付で会員に案内しました。本文は会員向けで、外部からは読めません。
税理士法人レガシィ代表社員の天野隆氏の解説によると、柱は 3 つの鉄則です。機密性の高い情報は法人向けの環境で扱うこと。契約で、入力が学習や機能改善に使われないことを確かめること。承認した道具だけを使い、所内のルールと教育で無許可の利用を防ぐことです。
同じ解説では、顧客の財務情報や個人情報を生成 AI で扱うときは、事前に説明して書面で同意を得ることが強く勧められているとされています。大野氏の個人的な助言と、同じ方向です。
別の解説記事によると、対象は生成 AI だけではありません。紙の書類を読み取る AI(AI-OCR)、議事録の作成サービス、クラウドストレージ、ブラウザの拡張機能まで含みます。指針の名前が「AI・クラウド」であることも、大野氏の見方と合っています。
委託先の担当者が、個人の AI を使ったら?
委託先の管理は、自社が AI を使う場面だけの話ではありません。全国健康保険協会(協会けんぽ)兵庫支部は 2026 年 9 月 30 日、ある事案を公表しました。
保健指導の業務を任せていた事業者の作業者が、許可されていない個人利用の生成 AI に、個人情報を含むデータをアップロードしていました。データは直後に削除され、被害は確認されていないとしています。原因は作業者の認識不足でした。
事業者は再発防止策として、許可していない生成 AI の業務利用の禁止の徹底や、利用環境の見直しを挙げています。自社の外注先が同じことをしていないか、契約と点検で確かめる必要があります。
SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか
大野氏の投稿から盗むべきは、「AI は危ないか」という漠然とした問いを、「どの契約で、誰が、何を入れるか」という管理の問いに置き換える手つきです。こう置き換えると、AI の判断は新しい難題ではなくなります。クラウド会計や外注先を選ぶときと同じ物差しで決められます。
月曜にできることは 3 つです。社内で使われている AI が、会社の契約か個人の契約かを洗い出す。会社の契約について、入力を学習に使わない条件と設定を確かめる。顧客の情報を扱う外注先にも、同じことを尋ねる。この順に進めれば、使ってよい範囲を社員に示せるようになります。
要点まとめ
- 大野修平氏は、AI の情報漏洩を「攻撃」ではなく「どのプラン・どの契約で入れるか」の問題として捉え直しました
- 個人情報保護委員会は、同意なく入力した個人データが出力以外に使われると違反の可能性があるとし、学習に使わないことの確認を求めています
- 契約で管理できる相手なら、外注先やクラウド会計と同じ委託先の管理として考えられる、というのが大野氏の読み方です
- 日税連は 2026 年 9 月に「AI・クラウド活用ガイドライン(Ver1.0)」を策定しました。法人向けの環境、学習に使わない契約の確認、所内のルールが柱とされます
- 大野氏は顧客から書面で同意を得ておくのが安心だとし、解説記事によれば指針も書面での同意を強く勧めています
- 委託先の担当者が個人の AI にデータを入れた事案も起きています。外注先の点検も欠かせません
情報ソース:
・日本税理士会連合会「税理士事務所のためのAI・クラウド活用ガイドラインの策定について」(2026 年 9 月 30 日)
・個人情報保護委員会「生成AIサービスの利用に関する注意喚起等」(2023 年 6 月 2 日)
・e-Gov 法令検索「税理士法」第 38 条、「個人情報の保護に関する法律」第 25 条・第 27 条
・税理士法人レガシィ 天野隆「日税連が税理士事務所向けAI・クラウド活用ガイドラインを策定 安全に活用するための3つの実務ポイント」
・猫の手AIラボ「日税連がAI・クラウド活用ガイドラインを策定――どこまで従う? 自分の事務所のルールを考える」(2026 年 10 月 14 日)
・全国健康保険協会 兵庫支部「個人情報漏洩の可能性に関する事案の発生(生成AIサービスへの個人情報データ入力)」(2026 年 9 月 30 日)
・元投稿:大野修平氏(@Shuhei_Ohno)、2026 年 10 月 15 日
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