X で人事テクノロジーの研究家、稲垣亮太氏(@inagaki_hq、株式会社 HQ 執行役員)が紹介した、AI 時代の人事の手引きを SYNCON 編集部が深掘りします。人事の分野で世界的に知られる Josh Bersin 氏と、人事システム大手の Workday が 10 月に公開したものです。
稲垣氏の投稿は、手引きの要点を 8 項目に分け、人手不足の数字から始め方の手順までを日本語で整理していました。人が増えない時代に人事をどう組み直すかは、業種を問わず経営の話です。
30 秒でわかるポイント
- 米国でも働き手は今後 10 年で 3.5% しか増えません。今の成長を保つだけで、約 25% の生産性向上が要るとされます
- Bersin 社は、人事部門の人員が 2030 年までに少なくとも 30%、50% に近い規模で減ると予測しています
- AI に先に任せるのは 4 領域。人事の窓口、事業部門に付く人事担当(HRBP)の支援、採用と社内異動、全社の学習です
1 分でわかる解説
手引きの主張は、AI を入れるかどうかではありません。AI を前提に、人事の役割と仕事の流れを組み直すことです。
問い合わせや手続きは AI が引き受け、人は判断と監督に回ります。人事の人数は減っても、仕事の重みは増します。どこに人を置き、誰を育て、何を AI に任せるか。その計画を描く役が人事に移るからです。
ここから考えたい 3 つの問い
- 数年後に必要な人数と今いる人数の差を、あなたの職場では数字で言えますか?
- 社員からの問い合わせや手続きのうち、AI に任せられる仕事はどれですか?
- 人事の成果を採用の人数ではなく一人当たりの売上で測ったら、何が変わりますか?
全文を読む(約 5 分)
人が増えないのに、どうやって事業を伸ばすの?
手引きの名前は「HR 2030: A Playbook for Agentic HR」です。直訳すると「AI が自ら動く人事への手引き」になります。Bersin 社が 10 月 13 日に発表した、Workday との提携の最初の成果物です。
出発点は人手の数字です。Bersin 氏は Workday のブログで、米労働統計局の予測をもとに、米国の働き手は今後 10 年で 3.5% しか増えないと書いています。今の成長を保つだけで、約 25% の生産性向上が要るといいます。
稲垣氏の要約では、この数字は 22% でした。なお、誰でも読めるブログ版では「約 25%」と書かれています。いずれにしても、人を増やして伸ばす道は細くなっています。
稲垣氏が投稿の 1 項目めに置いたのも、この点でした。経営の問いは「AI をどう入れるか」から「AI でどう事業を伸ばすか」に移り、壁は技術ではなく組織の側にある、という指摘です。
人事は「AI で動く仕組み」にどう変わるの?
稲垣氏は、人事を「AI とエージェント群で動く、持続的な成長のための OS(基本ソフト)」と言い換えています。エージェントとは、指示を受けて自分で手順を進める AI のことです。
ブログによると、個々のエージェントはばらばらには動きません。より大きな AI(スーパーエージェント)が束ねて動かします。最初に手を付ける領域として、ブログは次の 4 領域を挙げています。
| 領域 | 中身 |
|---|---|
| 人事の窓口 | 社員からの問い合わせや手続きへの対応 |
| HRBP の支援 | 事業部門に付く人事担当の仕事を補う |
| 採用と社内異動 | 社外から採る、社内で動かす |
| 全社の学習 | 社員の学び直しと育成 |
進め方は 3 段階で示されています。まず土台を整えて 4 領域で試す。次に成果を大きな仕組みにつなぐ。最後に、変化に合わせて人員計画を描き直せる段階に広げます。
人事の人数は本当に半分になるの?
Bersin 社の研究責任者 Kathi Enderes 氏は、8 月の寄稿で、人事部門の人員は 2030 年までに少なくとも 30%、50% に近い規模で減ると書いています。ベンダー側の予測であり、決まった事実ではありません。
中身を見ると、単純な削減の話ではないことが分かります。同じ寄稿では、AI が置き換える人事の仕事は今の 13%、大きく変わる仕事が 27%、AI で強化される仕事が 60% とされています。
職種の比率も動きます。事業部門に付く HRBP は 4 ポイント増えて人事の 21% を占め、最大の職種になる見通しです。Bersin 社のサイトでは、人事の職種の区分が 12 から 6 にまとまるとしています。
先行例として、寄稿は IBM の人事の AI 窓口「AskHR」を挙げています。年に 1,150 万件の対応をこなし、社員の推奨度は 2018 年の -35 から +74 に上がったといいます。
人事の成果は、何で測るようになるの?
稲垣氏が挙げたもう一つの論点が、人事の評価の物差しです。採用単価のような効率の数字に加えて、一人当たりの利益や、新しく入った人が戦力になるまでの期間が問われるといいます。
稲垣氏は、最高人事責任者(CHRO)が、最高財務責任者(CFO)が財務のシナリオを描くように、人材のシナリオを描くことを求められる、と要約しています。ブログも、うまく進めた会社は 5〜7 年で一人当たりの売上を倍にできると書いています。
完璧なデータを待たずに、どこから始めるの?
投稿の最後の項目は、始め方でした。完璧なデータを待たず、価値が出そうな所からすぐに始める。経営の議題に載せ、事業計画を作り、IT と財務の責任者と組み、四半期ごとに成果を測って広げていく流れです。
白書には CHRO 向けの 7 段階の行動計画が載っていると、ブログは紹介しています。Bersin 社も、HR 2030 の資料の中で 4 段階の変革のモデルを示しています。
Workday は、11,500 社以上の人事の仕組みづくりを支えてきた会社です。稲垣氏は、今週パリで開かれる人事の国際会議 UNLEASH でも近い内容が話されるはずだ、と書いていました。
SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか
日本の人手不足は米国より厳しい状況です。リクルートワークス研究所は、2040 年に 1,100 万人余りの働き手が不足すると試算しています。人を採って埋める発想は、どの会社でも続けにくくなります。
盗むべきは、人事を「採用の窓口」ではなく「人員の計画を数字で描く部門」として扱う発想です。月曜にできることは、人事の責任者に、来年必要な人数と、AI に任せたら浮く工数を、財務の数字と並べて出してもらうことです。社員の問い合わせ窓口のような、効果を測りやすい所から試すのが近道です。
要点まとめ
- Bersin 氏と Workday が、AI 時代の人事の手引き「HR 2030」を 10 月に公開しました
- 米国でも働き手は 10 年で 3.5% しか増えず、現状維持に約 25% の生産性向上が要るとされます
- 人事の人員は 2030 年までに 30〜50% 減るとの予測ですが、HRBP の比率は 21% に上がる見通しです
- AI に先に任せるのは、人事の窓口・HRBP の支援・採用と社内異動・全社の学習の 4 領域です
- 人事の成果は、一人当たりの売上や利益で測る方向に移ります
- 完璧なデータを待たず、効果を測りやすい所から始めるのが手引きの勧めです
情報ソース:
・Workday Blog「The Future of HR」(Josh Bersin 著)
・The Josh Bersin Company「Our New Partnership With Workday」(2026 年 10 月 13 日)
・The Josh Bersin Company「HR 2030」
・HRZone「HR in 2030: half the headcount and three times the impact」(Kathi Enderes 著、2026 年 8 月 26 日)
・ニュースイッチ(日刊工業新聞)リクルートワークス研究所「未来予測 2040」に関する記事(2023 年 5 月 25 日)
・元投稿:稲垣亮太氏(@inagaki_hq)、2026 年 10 月 20 日
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