「AI があるなら、もっと早く・簡単にできるだろう」。エンジニア 321 名への調査では、職場でそう言われた経験がある人が 45.8% いました。
ずれの元は AI の性能ではなく、開発のどこに時間がかかるかの見立てです。納期の決め方と、社内への期待の伝え方に関わります。
30 秒でわかるポイント
- 「AI なら早いでしょ」と言われた経験があるエンジニアは 45.8%
- AI の普及後にストレスが増えたと感じる人は 36.1%
- 負荷が最も大きい工程は要件定義で 23.4%。実装は 10.9%
1 分でわかる解説
エンジニアが最も負荷を感じる工程は、コードを書く作業ではありませんでした。何を作るかを決める「要件定義」です。
ストレスの原因でも、「決まっていたことが途中で変わる」が 37.8% で最多でした。書く作業を AI が手伝っても、決める時間と、手戻りの時間は縮みません。
| AI が手伝える作業 | 人に残る作業 |
|---|---|
| コードや文書の下書きを出す | 何を作るかを決める |
| 決まった仕様に沿った作業 | 仕様が変わったときのやり直し |
| — | AI が作ったものが正しいかを確かめる |
ここから考えたい 3 つの問い
- AI を理由に納期を縮めるとき、どの作業が短くなるのかを確かめていますか?
- 決めたことを途中で変えるとき、手戻りの時間を誰が見積もっていますか?
- AI が作ったものを確かめる時間は、予定に入っていますか?
全文を読む(約 4 分)
何が起きたの? — エンジニア 321 名の本音
調査したのは、株式会社キッカケクリエイションです。2026 年 8 月 31 日に結果を発表しました。
対象は、システム開発に携わるエンジニア 321 名です。調査は 2026 年 5 月 13 日〜20 日、インターネットで行われました。
非エンジニアの職種から「AI があるなら、もっと早く・簡単にできるだろう」という趣旨の期待や発言を受けたことがあるか。答えは次のとおりです。
| 回答 | 割合 |
|---|---|
| 頻繁にある | 10.6% |
| 時々ある | 35.2% |
| あまりない | 24.6% |
| 全くない | 24.3% |
AI の道具が広まってからストレスが増えたと感じる人は、36.1% でした。増えたと答えた 116 名に理由を聞くと、53.4% が非エンジニア職からの「もっと早くできるだろう」という期待や重圧を挙げました。
41.4% は、AI が書いたプログラムが正しいことを自分が保証しなければならない責任感を挙げています。自分の苦労が他の職種に理解されていないと感じる人も、45.8% いました。
AI があるのに、なぜ速くならないの?
精神的な負荷が最も大きい工程を聞くと、答えは次の順でした。
| 工程 | 割合 |
|---|---|
| 要件定義・仕様策定(何を作るかを決める) | 23.4% |
| テスト | 15.0% |
| 設計 | 13.1% |
| 実装・コーディング(プログラムを書く) | 10.9% |
ストレスの原因は、「事前に決まっていたことが途中で変わる」が 37.8% で最多でした。「エンジニア同士の認識のずれが後から分かる」が 33.7%、「非エンジニア職との認識のずれが後から分かる」が 22.3% と続きます。
包丁が切れるようになっても、献立が決まらなければ夕食は早く出ません。AI が速くするのは主に「書く」作業で、「決める」「確かめる」作業は人の側に残ります。
書く作業でさえ、速くなるとは限りません。研究団体の METR は 2025 年、経験を積んだ開発者 16 名に、実際の作業 246 件を AI ありとなしで進めてもらいました。
結果は、AI を使ったほうが 19% 長くかかりました。開発者は事前に 24% 速くなると予想し、終えた後も 20% 速くなったと感じていました。研究者は、経験の浅い人や不慣れな仕事には当てはまらない可能性があるとしています。
納期の決め方はどう変わるの?
「AI があるから短くできる」という見積もりは、どの作業が短くなるのかを分けないまま期間を縮めがちです。
| これまで | これから | |
|---|---|---|
| 納期 | AI があるから全体を短く | 短くなる作業と、ならない作業を分けて見積もる |
| 仕様の変更 | AI ですぐ直せる前提 | 変えるたびに手戻りの時間を足す |
| AI が作ったもの | そのまま使える前提 | 確かめる時間と責任者を決める |
エンジニアがストレスを減らすために求めるものでも、「適切な工数・スケジュール設定ができる体制」が 41.7% で最多でした。工数とは、仕事に必要な作業量の見積もりです。「関係者間の認識合わせを効率化する仕組み」も 29.3% ありました。
人材の面でも見過ごせません。今後のキャリアを聞くと、「現在の環境で続けたい」は 28.7% でした。「環境を変えて続けたい」が 37.7% で上回っています。
SYNCON の視点 — 速さを求める前に、決める
「AI なら早いでしょ」という一言は、相手の作業のうち、どこが速くなるのかを問わないまま出てきます。言われた側は、決まっていない仕様と、確かめる責任を抱えたまま期限を迎えます。
頼む側ができることは、意外と地味です。何を作るかを先に固めること。途中で変えるなら、その分の期間を足すこと。AI が作ったものを誰が確かめるかを決めること。どれも AI の導入費より安く済みます。
納期を決める場で役に立つのは、「AI で短くなるのは、どの作業ですか?」という問いです。この問いに答えられない計画は、AI があっても遅れやすいと考えてよさそうです。
要点まとめ
- エンジニア 321 名の調査で、「AI なら早いでしょ」と言われた経験がある人は 45.8%
- AI の普及後にストレスが増えた人は 36.1%。その 53.4% が非エンジニア職からの期待を理由に挙げた
- 負荷が最も大きい工程は要件定義(23.4%)で、実装(10.9%)より上
- 最大のストレスは「決まっていたことが途中で変わる」(37.8%)
- METR の研究では、経験ある開発者が AI を使うと作業が 19% 長くかかり、本人は 20% 速くなったと感じていた
- 納期は「短くなる作業」と「ならない作業」を分けて見積もる
情報ソース:
・株式会社キッカケクリエイション「【AIが生んだ「期待のズレ」】 AIへの過度な期待、約半数が「もっと早く」と要求された経験あり」(共同通信 PR ワイヤー、2026 年 8 月 31 日)
・METR「Measuring the Impact of Early-2025 AI on Experienced Open-Source Developer Productivity」(2025 年 7 月 10 日)
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