AI 時代のセキュリティは「直して出す力」 — 経営が決める投資の順番

BUZZ SYNC

X で話題になっていた投稿を、SYNCON 編集部が深掘りします。NTT ドコモビジネスでエンジニアリングマネージャーを務める iwashi 氏(@iwashi86)が、AI 時代のセキュリティを語った対談動画の要点を整理して紹介しました。語り手は、GMO Flatt Security 取締役で技術の最高責任者(CTO)の米内貴志氏です。セキュリティが「穴をふさぐ費用」から「直して出し続ける体制への投資」に変わった、という話です。

30 秒でわかるポイント

  • 米内氏の前提は「どのシステムにも、攻撃に使われる弱点(脆弱性)があって当たり前」。同社が診断で出す報告は、体感で 2 年前の 10 倍ほどに増えたという
  • 弱点が多いほど、直して出し直す回数も増える。「ソフトを出し続ける力」と「守る力」は同じ、というのが対談の芯
  • 着手は、事故が起きた後の動き方を固めることから。OpenAI は 250 人以上を動員した集中対応をもとに、発見から修正までを自動化する構想を公開している

1 分でわかる解説

なぜ「出し続ける力」が守る力になるのでしょうか? 弱点は、見つけただけでは消えません。直した版を作り、動くかを確かめ、利用者に届けて初めてふさがります。

これまでの見方 対談が示す見方
前提 弱点は見つけて無くすもの 弱点はあって当たり前
力の入れどころ 侵入を防ぐ 直して出し直す速さと、事故の後の動き
決める人 セキュリティの担当者 作る側に投資できる経営陣

iwashi 氏の投稿は、対談の流れを順番どおりに箇条書きにしています。前提、海外との差、着手の順番、将来像、人材という並びです。技術者でない人も、会議の論点としてそのまま使えます。

ここから考えたい 3 つの問い

  • 身近な職場で、外に公開しているサイトやクラウドの一覧を、すぐに出せる人はいますか?
  • 情報が漏れたと分かった直後に、誰が誰へ連絡するかは決まっていますか?
  • 古いシステムを作り直すかどうかを、費用だけでなく守りやすさでも比べていますか?
全文を読む(約 6 分)

なぜ「弱点はあって当たり前」から始めるの?

iwashi 氏が紹介したのは、テクノロジーメディア Newbee の公式チャンネルが公開した 46 分の対談です。聞き手は Newbee 代表の蜂須賀大貴氏です。米内氏は、現場で見てきた実感をもとに話しています。

出発点は、どのシステムも内部に弱点(脆弱性)を抱えているのが当たり前、という前提です。米内氏は、自社のシステムも例外にしていません。同社が診断で出す報告の数は、体感で 2 年前の 10 倍ほどになったと語っています。これは統計ではなく、米内氏の実感です。

iwashi 氏の投稿の良さは、この前提をいちばん上に置いたことです。「守り切れる」と考えたままだと、後に続く話がどれも余計な費用に見えてしまいます。順番を崩さずに要約しているので、対談の筋道がそのまま伝わります。

「直して出す力」が、なぜ守る力になるの?

投稿の中ほどに、この対談の芯があります。ソフトを継続的に修正して出す能力と、セキュリティを維持する能力は同じ、という指摘です。

理屈はこうです。弱点が大量に見つかるなら、修正も大量に当てる必要があります。それは、ソフトを何度も出し直せる体制があるか、という問いと同じです。

米内氏は、古い言語で書かれたソフトの例も挙げています。C 言語で書かれたソフトは、AI にいくら点検させても、どこかを叩けば壊れる状態が続くといいます。そこで出てくるのが、メモリーの扱いの誤りが起きにくい言語(メモリー安全な言語)に書き換える、という選択肢です。

海外の先端企業では、古いソフトを全部書き換えるところから議論が始まる印象だった、と米内氏は語っています。OpenAI の催しなどに参加して受けた印象で、日本ではあまり聞かない話だとも述べました。

ただし、全部を書き換えよという話ではない、とも添えています。全面の書き換えまで行かなくても、AI を本格的に入れてソフトを延命させる意思決定は要る、という言い方です。

では、決めるのは誰でしょうか? 米内氏は、セキュリティの責任者(CISO)が必要だと言っても、それだけでは進まないと話しています。作る機能を持つ CTO の側が投資できて、初めて進むという指摘です。

何から手を付ければいいの?

投稿の後半は、これから取り組む会社のための順番です。米内氏は、弱点は潰しても同じだけ出てくると見ています。だから、事故が起きた後の話を先に固めるほうがよい、という考え方です。

順番 取り組み 中身
最初 事故の後の動き方を固める 最初の対応と、上へ報告する流れを決め、事前に訓練する
次 権限とデータを絞る データの重要度を整理し、権限を減らし、データを分ける
その後 部品の弱点をふさぐ 自社のソフトが頼っている外部の部品の弱点を直す

あわせて挙がったのが、自社が外に公開している資産の把握です。WordPress の弱点が見つかったとき、米内氏が最も多く聞いたのは「WordPress の一覧なんて持っていない」という声でした。

AI にコードを書かせて作った社内アプリが、クラウドに次々と載る時代です。把握の大切さは増しています。米内氏は、漏れなく把握するのは無理だとしつつ、AI のおかげで難しさは下がったと述べています。

公的な指針や海外の動きは、どうなっているの?

対談の論点は、公的な文書とも重なります。経済産業省は 2023 年 5 月に、攻撃者の目線で自社の公開資産を洗い出す取り組み(ASM)の導入ガイダンスを公開しました。ASM の特徴として、情報システムを管理している部門が把握していない IT 資産を発見できる点を挙げています。

言語の書き換えについては、米国のサイバーセキュリティ当局(CISA)が 2023 年 12 月 6 日に文書を出しています。ソフトを作る企業に、メモリー安全な言語への移行計画を作って公表するよう促す内容です。題名には「経営幹部と技術の専門家の両方が」真剣に受け止めるべき、という言葉が入っています。

投稿の終盤に出てくるのが、OpenAI の「Defense Factory」です。弱点を継続的に発見、検証、修正する、自動化された防御の仕組みを指します。OpenAI は社内で 250 人以上を動員した集中対応を行ったとしています。Cloudflare、Ramp、Google のチームも同じ進め方を模索していると書いています。

公式の説明では、自分で手順を進める AI(AI エージェント)が、試験を済ませた修正案を用意します。それを人が確かめる形で、自動化は段階的に広げるとしています。

米内氏はこの方向を、向かうべきものと評価しています。一方で、実現までの距離は「超遠い」とも表現しました。AI がソフトを出す工程に関われることと、修正が動くかを確かめる環境があることが前提になるからです。

SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか

盗むべき 1 つ目は、予算の見方です。セキュリティの費用を「防ぐ道具」の代金としてだけ見ていると、直して出す体制への投資が抜け落ちます。次の予算の議論では、「弱点が見つかってから直した版を出すまで、何日かかるか?」を担当者に尋ねてみます。答えがすぐに出ないなら、そこが最初の投資先です。

2 つ目は、月曜にできる確認です。情報が漏れたと分かったとき、最初に誰が何をするかを紙 1 枚に書けるかを確かめます。あわせて、外に公開しているサイトやクラウドの一覧があるかを尋ねます。対談の終盤で米内氏は、開発を率いる技術責任者(テックリード)にあたるセキュリティの技術者が各社に要る、という見方に同意しました。日本では足りておらず、育つまで時間がかかるとも述べています。iwashi 氏が括弧書きで添えた「投資していかないと」は、経営への宿題として読めます。

要点まとめ

  • 米内貴志氏の前提は「どのシステムにも弱点があって当たり前」。診断で出す報告は、体感で 2 年前の 10 倍ほど
  • ソフトを直して出し続ける能力と、セキュリティを維持する能力は同じ。投資を決めるのは経営陣
  • 着手の順番は、事故の後の動き方、権限とデータの絞り込み、部品の弱点の修正
  • 公開資産の把握は、経済産業省も 2023 年 5 月のガイダンスで取り上げている。AI で難しさは下がった
  • OpenAI は 250 人以上を動員した集中対応をもとに、発見から修正までを自動化する構想を公開。人の確認は残る
  • 社内でセキュリティを率いる技術者が要る。日本では足りず、育つまで時間がかかる

情報ソース:
・Newbee ~テクノロジーメディア~(YouTube)「【世界がお手上げ、AI時代のセキュリティ】脆弱性が溢れかえっている / 企業が取るべき対策と実践 / 1社に1人セキュリティスペシャリストの時代 / セキュリティ投資は経営課題」(2026 年 10 月 6 日)
・OpenAI「The defender’s window is closing」(Defense Factory の公式ページ)
・米国サイバーセキュリティ・インフラストラクチャセキュリティ庁(CISA)「The Case for Memory Safe Roadmaps」(2023 年 12 月 6 日)
・トレンドマイクロ「経済産業省『ASM(Attack Surface Management)導入ガイダンス』を解説」(2025 年 5 月 27 日)
・元投稿:iwashi 氏(@iwashi86)、2026 年 10 月 10 日

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