年間 4,600 万人以上が利用する JAL グループが、コールセンターに届く年間 200 万件を超える音声データを、AI で検索・分析できる形に変えようとしている。録音はどの会社にも眠っているが、探せない記録は経営判断の材料にならない。問われているのは技術の選定より、「何を知りたいか」を誰が言葉にするかという役割分担だ。
何が起きたか — 200 万件の「声」に手を付けた JAL
ITmedia ビジネスオンラインが 9 月 25 日に報じた。舞台は、データ基盤を手がける米 Snowflake が東京で開いた催し「Snowflake World Tour Tokyo 2026」。JALデジタル デジタル戦略部 データ活用推進グループ マネージャーの吉岡美江氏が、「『声』のデータを迷わず使える武器へ。JALグループが実践する現場起点のデータ変革」と題して取り組みを説明した。
JAL グループは、日本航空のほか格安航空会社の ZIPAIR などを抱え、連結グループ会社は 50 社を超え、約 4 万人の社員が働く。手元には予約データに加え、年間 200 万件を超えるコールセンターの音声データがある。いま進めているのは、普段の言葉で問いかけてデータを検索・分析できる環境の整備と、音声データから顧客の問い合わせ傾向をつかむ仕組みづくりだ。
体制も変えた。2026 年 4 月、グループのデジタル機能を JALデジタルに集約し、各業務部門にデジタル担当者を割り当てて、現場に伴走しながら課題を解く形へ転換した。現場の業務知見と、データの専門知識を組み合わせて、実際の業務で使えるデータ活用を目指すという。
技術の要点 — 「表にならない記録」が探せるようになる
社内の記録には 2 種類ある。売上や在庫のように、表の行と列にきれいに収まる数字の記録。そして、通話の録音、問い合わせメールの本文、営業日報、会議のメモのように、表に収まらない言葉の記録だ。後者は量が圧倒的に多いのに、ほとんど使われていない。
理由は単純で、探せないからだ。録音は聞き返すしかなく、何十万件もあれば誰も聞かない。せいぜい「問い合わせ件数」という数字だけが報告書に載り、中身は担当者の記憶に残るだけになる。
AI が変えたのはこの前提だ。音声を文字に起こし、内容ごとに分類し、たとえば「先月、請求書の見方についての問い合わせが増えたのはなぜか」のような普段の言葉の質問で探せるようになる。JAL が整えている「自然言語で検索・分析できる環境」とは、専門の担当者に集計を頼まなくても、現場の人が自分で記録に問いかけられる状態のことだ。
経営層への影響 — 件数ではなく「中身」で判断する
問い合わせの記録が探せるようになると、判断の材料が変わる。新しいサービスや料金改定を出した後、顧客が何に戸惑い、何に怒っているのかを、件数の増減ではなく声の中身で確かめられる。商品の改善を議論するときも、「お客様からそういう声がある」という印象論ではなく、実際の問い合わせを根拠に話せる。ベテラン担当者の記憶に頼っていた「よくある困りごと」が、組織の知識として残る。
ただし、つまずきやすいのは技術より役割分担だ。デジタル担当者だけでは、どの問い合わせが経営上の意味を持つのか、社内の言葉が何を指すのかが分からない。現場だけでは、仕組みを作れず、データの質も保てない。JAL が部門ごとにデジタル担当者を置き、現場に伴走させる形を選んだのは、この溝を埋めるためと読める。
日本企業に当てはめれば、最初に決めるべきは三つ。現場が「何を知りたいか」を問いの形で出すこと。デジタル担当が録音の保存と文字化、探せる仕組みを受け持つこと。そして、録音を分析に使うことが顧客への説明や社内規程と矛盾しないかを、法務と先に確かめること。この順番を飛ばしてツールを入れると、使われない検索画面が一つ増えるだけになる。
SYNCON の視点 — 「録音している」と「使える」の間
多くの会社は、品質管理のために通話を録音している。だが録音は、トラブルが起きたときに聞き返す証拠として保管されているだけで、経営の判断材料として扱われていない。JAL の取り組みが示すのは、眠っている記録の価値は、量ではなく「誰が何を問うか」で決まるということだ。
AI の導入は、記録を探せる状態にする入口にすぎない。その先で判断が変わるかどうかは、現場の問いと、それを受け止める担当者が組になっているかにかかる。来週の経営会議で問うべきは、「うちの問い合わせ記録は、いま誰が、何を知るために読んでいるか」だ。
要点まとめ
- JAL グループは、年間 200 万件を超えるコールセンターの音声データを AI で検索・分析できる形にする取り組みを進めている
- 利用者は年間 4,600 万人以上、連結グループ会社は 50 社超、社員は約 4 万人
- 2026 年 4 月にデジタル機能を JALデジタルに集約し、各業務部門にデジタル担当者を置いて現場に伴走させる体制へ転換
- 録音やメール本文のような「表にならない記録」は、AI で文字にして分類すれば普段の言葉で探せるようになる
- 成否を分けるのは技術より役割分担。現場が問いを出し、デジタル担当が仕組みを受け持つ
情報ソース:
・ITmedia ビジネスオンライン「JALグループ、コールセンターに眠る「200万件の声」 AIで“検索できる宝”に変えた地道なDXの裏側」(2026 年 09 月 25 日)
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