
自社を「データセンターの世界最大の保有者」、AI のインフラだと紹介
世界最大の投資ファンド、ブラックストーンのスティーブン・シュワルツマン CEO が、10 月から日経「私の履歴書」に登場しています。第 1 回で自社を「データセンターの世界最大の保有者」と紹介したこの会社は、AI を社内・投資先・投資の対象という 3 つの層で使い倒しています。
30 秒でわかるポイント
- ブラックストーンは AI を 3 つの層で使っています。社内の投資検討、投資先の経営改善、そしてデータセンターや AI 企業への投資です。
- 好決算の最大の原動力は AI 関連の投資だと説明しています。データセンター事業は建設中を含め 1,850 億ドル規模で、半年で約 4 割増えました。
- 2026 年には Anthropic などと組み、企業への AI 導入を請け負う会社「Ode with Anthropic」を立ち上げました。
1 分でわかる解説
3 つの層は、同じ方向を向いています。③で AI の成長に投資し、②で投資先の価値を上げ、①で自社の判断を速くする。②と③をつなぐのが、AI の導入そのものを事業にした Ode です。
一方で経営陣は、AI への過熱を意識して投資先を選んでいるとも話しています。AI で伸びる会社と、AI に揺さぶられる会社を見分けることにも、AI を使っています。
ここから考えたい 3 つの問い
- AI の使い道は、社内の効率化だけで止まっていませんか?
- AI の成果を、かかった時間ではなく、お金(利益)で測れていますか?
- AI を現場に入れる人は、社内にいますか? いなければ、誰に任せますか?
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「私の履歴書」には何が書かれているの?
日本経済新聞の「私の履歴書」で、10 月 1 日からシュワルツマン氏(79 歳)の連載が始まりました。全 30 回です。2024 年 10 月には、ライバルの KKR 共同創業者ヘンリー・クラビス氏も登場しています。
第 1 回の題は「日本へ恩返し」です。2 人で始めた会社が約 40 年で社員 5,000 人、預かり資産 1.3 兆ドル超になったと振り返り、自社を「データセンターの世界最大の保有者」、AI のインフラだと紹介しました。創業期を救ったのはジャパンマネーで、日本は今後 10〜20 年の中核的な投資先になる、とも書いています。
3 つの層で何をしているの?
| 層 | 何をしているか | 数字 |
|---|---|---|
| ① 社内の業務 | 投資検討の下書き、文書の要約・検索・翻訳 | 最初の投資メモは 2〜3 日 → 数時間でもできる |
| ② 投資先の経営改善 | データサイエンティストのチームが、投資先と AI の戦略・導入で連携 | 効果の推計は EBITDA で約 2 億ドル(2024 年 6 月末時点) |
| ③ AI そのものへの投資 | データセンター、電力、AI 企業に投資 | データセンター事業は 1,850 億ドル(年初は 1,300 億ドル) |
きっかけは 2015 年ごろです。北京の会議に向かうバスでアリババ共同創業者のジャック・マー氏と隣り合わせ、渋滞の 1 時間あまり、AI の可能性と危うさを聞きました。帰国後にデータサイエンティストのチームを採用させ、2023 年には 50 人を超えていました。
① 社内では何が速くなったの?

北米のプライベート・エクイティ部門の責任者によると、以前はアナリストが最初の財務モデルに少なくとも 2 日かけていました。今は、銀行と電話で話している間に AI が最初のモデルを作ります。若手が書く最初の投資メモも、自社の AI 基盤を使えば数時間でできます。CTO は「完璧ではないが、しっかりした土台になる」と話しています。
AI は「買わない判断」にも使われました。コールセンターと教育の上場企業 2 社は、AI のモデルが新規顧客の減速と定着率の低下を予測し、投資を見送っています。
② 投資先には何を求めているの?
シュワルツマン氏は投資先の社長たちとの四半期ごとの電話で、AI を取り入れて業界で先に動くよう求めています。ブラックストーンが示す進め方は 3 段です。
- 社長自身に AI でメールやメモを書かせ、慣れてもらう
- 技術に強い役員を 1 人決め、導入の責任者にする
- ブラックストーンのデータと人材を使い、これまで解けなかった一番の課題から取り組む
物流倉庫のリンク・ロジスティクスでは、20 億件を超えるデータで需要の強い建物と場所を見極めています。会社側の推計では、こうした支援で投資先の EBITDA(税や利払いなどを引く前の利益)が約 2 億ドル増えました(2024 年 6 月末時点)。ほかの要因が効いた可能性も否定できない、と注記しています。
③ AI そのものへの投資は?
シュワルツマン氏は、好決算の最大の原動力は AI 関連の投資だと説明しています。運用資産は 2026 年 6 月末で過去最高の約 1 兆 3,500 億ドルです。4〜6 月期に評価額が大きく上がった上位 10 件のうち、9 件が AI 関連でした。Anthropic、OpenAI、SpaceX にも直接出資しています。
4〜6 月期だけで、AI 向けの新しい会社や仕組みを 4 つ立ち上げました。Google と組んだ TPU の AI クラウド会社(当初最大 50 億ドル)と、Anthropic と組んだ AI 導入の会社。Broadcom などと組んだ計算設備の資金の仕組み(当初 350 億ドル)と、新築のデータセンターを買い取る REIT「BXDC」(20 億ドルの募集)です。
Ode はどんな会社なの?

2026 年 5 月に Anthropic、ブラックストーン、ヘルマン・アンド・フリードマン、ゴールドマン・サックスが設立を発表しました。7 月に「Ode with Anthropic」の名前で動き出しています。中核は、5 月に買収した AI 導入の専門会社 Fractional AI の技術者と、Anthropic の技術者です。金額は公式には明かされておらず、米ウォール・ストリート・ジャーナルは評価額を約 15 億ドルと報じました。グレイ社長は、Ode で投資先への AI 導入を速め、いずれは投資先以外の会社にも提供すると説明しています。
浮かれてはいないの?
シュワルツマン氏は、AI への過熱を意識して投資先を選んでいると述べています。グレイ社長は、ソフトウェアや専門サービスの会社は業績がよくても買い手が慎重になっていると認め、この分野はプライベート・エクイティ市場の 3〜4 割にあたると話しました。
SYNCON の視点 — まねしやすいのは②の進め方
以下は、上の事実をもとにした SYNCON 編集部の見方です。
1. まねしやすいのは②の進め方です。データセンターへの投資は規模の勝負ですが、②の進め方は規模を問いません。社長がまず自分で触る、責任者を 1 人決める、一番困っている課題から始める、成果をお金で測る。この 4 つは、小さな会社でも始めやすそうです。
2. 導入する人手が、壁になりつつあります。50 人を超えるデータサイエンティストを抱える会社でさえ、外部の導入会社をつくりました。社内に人がいない会社ほど、誰に導入を任せるかが成否を分けそうです。
3. AI は会社の値段にも響き始めています。事業承継や M&A を考える経営者にとって、自社が AI で伸びる側か揺さぶられる側かは、会社の値段にかかわる問いになりつつあります。日本を中核的な投資先と見る同社の手法が、日本の会社に持ち込まれる日も遠くないかもしれません。
情報ソース:
・日本経済新聞「私の履歴書」スティーブン・シュワルツマン(2026 年 10 月)
・ブラックストーン「私の履歴書 第 1 回 日本へ恩返し」
・Blackstone「Second Quarter 2026 Investor Call」(2026 年 7 月 23 日)
・Blackstone「Investing in AI」
・Blackstone「Form 10-K」(2025 年 12 月期)
・Institutional Investor「How Blackstone Sprinted Ahead of Its Peers in AI」(2023 年 9 月 6 日)
・Anthropic・Blackstone・Hellman & Friedman「Ode with Anthropic」の発表(2026 年 7 月 15 日)
・Anthropic「enterprise AI services company」の発表(2026 年 5 月 4 日)/ TechCrunch(2026 年 5 月 4 日)
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