システムを入れれば業務が楽になる、とは限らない。中小企業の経営者・役員 300 人に聞いた調査で、53.2% が「システムの導入や開発のプロジェクトで失敗やトラブルを経験した」と答えた。内訳を見ると最も多いのは技術的な不具合ではなく、途中で出てきた追加の請求である。見積もりの精度の話ではなく、契約前にどこまで決めたかの話だ。
何が起きたか — 過半数が途中でつまずいている
調査を実施したのは btobee。全国の経営者・役員 3,000 人(うち中小企業 2,545 人)に事前調査をかけ、そのうち社内のシステム導入に関与する立場の 300 人に本調査を行った。実施は 2026 年 7 月、インターネット調査である。
この 300 人のうち、何らかのシステムを導入している企業は計 47.0%。そして導入済みの企業に失敗やトラブルの経験を尋ねたところ、53.2% が「経験あり」と回答した。半数以上が、入れた後に何かしら詰まっている。
注目すべきはその中身だ。最も多かったのは「開発・導入の途中で追加費用を示され、当初予算を超過した」で 40.0%。次いで「事前の要件や想定に比べ、品質や機能が不足した」が 34.7%、「開発・導入のスケジュールが遅延した」が 33.3% と続く。予算・機能・納期という、経営が承認した三つの前提がそのまま崩れている構図になる。
金額の規模も押さえておきたい。月額課金で使う既成のソフト(SaaS)については、年間利用料が「50 万円未満」と答えた企業が 51.0% で過半数を占める。一方、自社向けのカスタマイズや独自システムを手がけた層では、年間の開発費が「300 万~1000 万円」が 36.6% で最多、1000 万円以上も 12.2% あった。既成品を使っているうちは年間数十万円の世界だが、自社に合わせ始めた瞬間に桁が二つ動く。
後から出てくる費用は、どの工程で生まれるか
追加費用が発生する工程は、だいたい決まっている。発注側が「こういう業務をこう処理したい」と伝え、受注側が「ではこういう仕様で作る」と文書に落とす工程がある。ここで詰め切れなかった部分は、消えるのではなく、後工程に持ち越される。作り始めてから「うちの承認は二段階です」「この帳票は取引先ごとに様式が違います」と判明すれば、それは当初の見積もりの外にある作業として請求される。受注側からすれば当然の話で、騙しているわけではない。決めていなかったのだから、決まっていない分の値段が付いていないだけだ。
もう一つは、既成のソフトと自社の業務のすき間である。月額課金のソフトは、多くの会社に共通する業務を標準の形で処理するようにできている。自社の手順がその標準からずれていると、ソフト側を直すか、業務側を直すかの二択になる。前者を選べば開発費が乗り、後者を選べば現場の作業手順書を書き換える手間と、慣れるまでの生産性の落ち込みが乗る。この落ち込みは請求書に載らないので見えにくいが、実質的なコストであることに変わりはない。
三つ目は、稼働した後だ。誰がデータを整備し、誰が使い方を教え、誰が不具合の一次受けをするのか。ここを決めずに動かすと、情報システム部門がない会社では、たいてい一番忙しい人のところに全部集まる。その人の時間は会計上どこにも計上されないまま、確実に減っている。
経営層への影響 — 原因は技術ではなく体制にある
同じ調査で、トラブルの原因を尋ねた結果が示唆的だ。最も多かったのは「自社に IT の専門知識を持つ人材が不足していた」。続いて「経営陣と現場の間で導入目的が共有されていなかった」が 29.3%、「プロジェクトを統括し、進行を管理する人材が不在だった」が 24.0% だった。どれも技術の難しさではなく、社内の体制と合意の話である。
導入を支援する相手に何を求めるかという設問でも、「予算内に収まる適正なコスト」が 33.0% で最多。「自社の業務内容や課題への深い理解」と「導入後の手厚いアフターフォロー・定着支援」が各 20.3%、「自社に適したシステムの客観的な選定・提案」が 18.3% と続く。安さだけを求めているわけではない。読み替えれば、金額が動く条件をあらかじめ握れる相手を探している、ということになる。
この構図は、いま多くの会社が検討している AI の導入にもそのまま当てはまる。何を任せるか、うまくいかなかったときに誰が止めるか、教え込むためのデータは誰が整えるか。決めずに始めれば、同じ工程で同じように追加費用が出る。順序としては、AI を選ぶより先に、この決め方を持っているかどうかを確かめたほうがいい。
SYNCON の視点 — 決めていない項目が、そのまま請求書になる
この調査から読み取るべきなのは「業者に気をつけろ」ではない。追加費用は、発注側と受注側のどちらかが悪いから出るのではなく、決めていない項目があるから出る。だとすれば経営がやることは一つで、契約書に署名する前に、決めるべき項目の一覧を自分の手元に持っておくことだ。仕様変更が出たときの単価と承認者は誰か。検収の合格条件は何をもって満たすのか。稼働後の運用と問い合わせ対応はどちらの範囲か。教育と定着支援は契約に含まれるのか、別料金か。この四つが白紙のまま進むプロジェクトは、金額が動く余地を丸ごと相手に預けている。
もう一つ、社内の側にも決めることがある。このプロジェクトで何がどうなれば成功なのかを、数字か期限で一行に書けるか。書けないなら、現場は何を優先して良いか分からず、途中で要望が増え続ける。要望が増えれば仕様が変わり、仕様が変われば費用が変わる。過半数がつまずいているという数字は、能力の差ではなく、この一行を書いてから始めたかどうかの差を映している可能性が高い。来週の経営会議で問うべきは「どのシステムを入れるか」ではなく、「いま動いている案件で、金額が変わる条件を誰が握っているか」ではないか。
要点まとめ
- 中小企業の経営者・役員 300 人への調査で、システムの導入や開発のプロジェクトでの失敗・トラブル経験は 53.2% に達した
- 内訳の最多は「途中で追加費用を示され当初予算を超過した」で 40.0%。機能不足 34.7%、スケジュール遅延 33.3% が続く
- 年間費用は既成ソフト利用が「50 万円未満」51.0% に対し、カスタマイズ・独自開発層は「300 万~1000 万円」が 36.6%、1000 万円以上も 12.2%
- 原因は技術ではなく体制。目的の未共有 29.3%、統括人材の不在 24.0% が上位に並ぶ
- 支援先に求めるのは「予算内に収まる適正なコスト」33.0% が最多で、金額が動く条件を握れる相手が求められている
- 契約前に決めるべきは、仕様変更の単価と承認者、検収の合格条件、稼働後の運用範囲、教育と定着支援の扱いの四点
情報ソース:
・ITmedia ビジネスオンライン「「システム入れれば解決」のワナ 中小企業の53%が途中で「失敗」、”後出しコスト”に泣くDXのリアル」(2026 年 09 月 23 日)
・キーマンズネット「中小企業のシステム導入、過半数が失敗を経験 トラブルの根本原因はどこにある」(2026 年 07 月 31 日)
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