アップルが 9 月 18 日に発売した Apple Watch Series 12 と Apple Watch Ultra 4 は、心拍を 5 秒ごとに測る新しいセンサーを積み、測定の頻度を従来の 60 倍に引き上げた。その一方で、2020 年から使えていた手洗いの 20 秒タイマーが、対応機種の一覧から静かに外れている。健康経営や現場の衛生管理を目的に腕時計型の端末を配るなら、今年の型で足りるのか、目的ごとに切り分けて決める話になる。
何が起きたか / 機能の核心
アップルは Apple Watch Series 12 と Apple Watch Ultra 4 に、新しい健康センサー群を載せた。光学式と電気式の心拍センサーを作り直し、1 日を通して 5 秒ごとに心拍を測る。従来モデルに対して 60 倍の頻度である。心拍のゆらぎ(心拍変動、HRV)の測定頻度も最大 24 倍に増えた。センサーの精度については、1,000 人を超える参加者を集めて他社の腕時計型端末と比べる比較研究が実施されている。
集めたデータの見せ方も変わった。新機能の readiness は、直近の活動量・バイタル・睡眠の分析から、その日どれだけ動けるかを 0 から 10 のスコアと 4 段階の助言で示す。夜間のバイタルには心拍のゆらぎが加わり、本人の平常値と比べた表示になる。日本での価格は Series 12 が 7 万 1800 円から、Ultra 4 が 14 万 2800 円からで、前の世代から据え置かれた。
ところが、載らなかったものがある。手洗いの検出だ。腕時計側の基本ソフト(watchOS)27 で手洗い検出に対応する機種として並んでいるのは、Apple Watch SE 3、Series 9、Series 10、Series 11、Ultra 2、Ultra 3 である。この一覧に Series 12 と Ultra 4 の名前はない。米メディアの 9to5Mac が 9 月 19 日に報じ、旧モデルから買い替えた利用者からも、手洗いのタイマーが見当たらないという声が出ている。
経緯 / 技術の要点(非エンジニア向けに)
手洗い検出は 2020 年に追加された機能である。腕の動きと水の音から手を洗い始めたことを察知し、20 秒のカウントダウンを自動で始める。時間が足りないうちに切り上げると続けるよう促し、平均の手洗い時間は本人の iPhone の健康アプリに記録される。感染症対策が社会の関心事だった時期に生まれた機能だ、と言ってしまえばそれまでだが、飲食・医療・介護の現場では衛生教育の小道具として使われてきた。
今年の機種で何が起きたのかを、アップルは説明していない。9to5Mac は、2026 年の機械ではこの機能がもう支えられていないのだろうと見ており、対応機種一覧の記載漏れなのか仕様の変更なのかは確定していない。新しい機種には S11 という新しい頭脳が載り、周囲の音を聞き分ける機能や音声アシスタントの刷新に開発の重心が移っている。手洗いの検出も周囲の音を使う機能だったことを考えると、音の処理の作り直しに巻き込まれた可能性はあるが、これは推測の域を出ない。
押さえておきたいのは、機能が消えるときに案内は来ない、という一点である。新機能は発表会で語られ、報道され、社内の稟議書にも書ける。消える機能は、支援ページの対応機種一覧から名前が 1 行落ちるだけだ。
経営層への影響 / 日本企業への含意
腕時計型の端末を会社が買う理由は、だいたい三つに分かれる。健康経営、現場の衛生や安全の管理、そして勤怠である。今回の変更は、この三つで意味がまるで違う。
健康経営が目的なら、今年の型を買う判断が立つ。心拍の測定頻度が上がり、睡眠と合わせて日々の体調を数字で返す仕組みが整った。ただし、扱うのは従業員の健康情報である。誰がどこまで見るのか、本人の同意をどう取るのか、退職時にデータをどうするのかを先に決めないまま配ると、後から止まる。機器の性能よりも、社内規程のほうが律速になる。
衛生や安全の管理が目的で、手洗いの機能を当てにしていたなら、今年は見送って現行の Series 11 や Ultra 3 を確保するほうが早い。ただし、そもそもこの機能は本人向けの目安であって、記録は個人の iPhone に入る。会社の衛生管理の証跡としては使えない。監査に耐える記録が要るなら、腕時計ではなく業務用の仕組みを選ぶ話になる。目当ての機能が消えたことを、道具の選び直しの機会と捉えたい。
勤怠が目的なら、買う理由にならない。位置や心拍から在席を推し量る使い方は、労務上の争点を自分から作りにいく行為である。
運用面で効くのは電池だ。Series 12 は通常使用で最大 24 時間、低電力モードで最大 38 時間。Ultra 4 は最大 50 時間、低電力モードで最大 84 時間。屋外の作業では Series 12 が最大 10 時間、Ultra 4 が最大 25 時間となる。睡眠まで測るなら夜も着けたままにする必要があり、Series 12 だと日中のどこかで充電する時間を業務に組み込むことになる。現場に配るなら、この差は価格差より重い。
SYNCON の視点 — 買う理由は、載った機能ではなく残る機能で決める
新しい機種を評価するとき、私たちは追加された機能の一覧を見る。だが、業務に組み込んだ道具で本当に痛いのは、追加されないことではなく、当たり前に使っていたものが黙って消えることだ。今回消えたのは手洗いのタイマーという小さな機能で、これ自体を惜しむ会社は多くないだろう。問題は構造のほうにある。会社が業務に組み込んだ機能が、端末の世代交代で予告なく落ちる。しかも落ちたことに気づくのは、現場で使っていた人が「無くなった」と言い出したときだ。
だから、買うか待つかの判断は「新型に何が載ったか」ではなく「自社が頼っている機能が残るか」から立てるほうがいい。業務で使っている機能を三つか四つ書き出し、それが新しい機種の対応表に載っているかを買う前に確かめる。この確認を誰の仕事にするかまで決めれば、次の世代でも同じ事故は起きない。来週の経営会議で問うべきは、新しい腕時計を買うかどうかではなく、いま社内で配っている端末のうち「これが無くなったら業務が止まる機能」を誰が把握しているか、である。
要点まとめ
- Apple Watch Series 12 と Ultra 4 が 9 月 18 日に発売。心拍を 5 秒ごとに測り、測定頻度は従来の 60 倍、心拍のゆらぎは最大 24 倍になった
- 日本での価格は Series 12 が 7 万 1800 円から、Ultra 4 が 14 万 2800 円からで据え置き
- 2020 年から使えた手洗いの 20 秒タイマーは、watchOS 27 の対応機種一覧から Series 12 と Ultra 4 が外れている。アップルからの説明はない
- 健康経営が目的なら買う判断が立つ。ただし健康情報の扱いを決めるほうが先で、そこが律速になる
- 衛生管理の証跡が目的なら、腕時計ではなく業務用の仕組みを選ぶ。勤怠目的は労務上の争点を作るので見送る
- 電池は Series 12 が最大 24 時間、Ultra 4 が最大 50 時間。夜も着けて睡眠を測るなら、充電を業務に組み込めるかで機種が決まる
情報ソース:
・Apple Newsroom「Introducing Apple Watch Series 12, with the all-new Health Sensing System」(2026 年 9 月 9 日)
・9to5Mac「Apple Watch Series 12 and Ultra 4 missing one health-focused feature」(2026 年 9 月 19 日)
・9to5Mac「Apple Watch Series 12 and Ultra 4 unveiled with upgraded health tracking system」(2026 年 9 月 9 日)
・Apple サポート「Set up Handwashing on Apple Watch」(watchOS 27)
・ケータイ Watch「「Apple Watch Series 12」「Apple Watch Ultra 4」発表、心拍測定や AI 進化」(2026 年 9 月 10 日)
AI・最新テックの動きを、毎日 X でお届けしています
X で @SYNCONJP をフォロー




コメント