攻撃にも使える AI の力を、審査に通ったセキュリティの担当者にだけ開く仕組みが広がりました。株式会社 en-gine 代表で、Claude Community Ambassador も務める平川知秀氏(@t_hirakawa)が X で紹介しました。その投稿を、SYNCON 編集部が原典に戻って深掘りします。
対象には、地域の病院や自治体が運営する公益事業も入っています。守る側が最先端の AI を使えるかどうかは、大企業だけの話ではなくなりました。
30 秒でわかるポイント
- Anthropic は 10 月 6 日、Claude のサイバー能力を審査つきで開く「サイバー検証プログラム(CVP)」を 3 段階に広げた
- 一般向けの Claude は、サイバー関連の作業の大半を引き続き止める。審査に通った組織だけ、その制限が緩む
- 先行して使った組織は、2026 年 4 月から 7 月に 12.9 万件のソフトウェアの弱点(脆弱性)を見つけた
1 分でわかる解説
平川氏の投稿が効いていたのは、英語の発表を 3 つの区分に分け、日本語の具体例で並べた点です。防御、侵入テスト、重要インフラのテスト。銀行間の送金や航空まで挙げたので、どこまで踏み込む話かがひと目で分かります。
考え方の核は「力そのものを止めるのではなく、相手を審査して開く」ことです。弱点を見つける力は、守る側にも攻める側にも同じように役立つからです。
経営にとっての意味は、守りに使える AI の水準が、申請するかどうかで変わることです。誰が申請し、何に使うかを決めるのは、会社の判断になります。
ここから考えたい 3 つの問い
- あなたの職場のシステムの弱点を、いま誰がどんな道具で探していますか?
- 攻撃を受けたとき、最初の数時間に動ける人と手順は決まっていますか?
- AI に渡したやり取りの記録が残る条件を、受け入れられますか?
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なぜ Claude の力は制限されていたの?
Anthropic の発表によると、一般向けの Claude Opus 5.5、Claude Fable 5.1、Claude Sonnet 5.5 には慎重な安全策がかかっています。サイバー関連の作業の大半を止める設定です。
理由は、平川氏が書いたとおりです。ソフトウェアの弱点を見つけ、侵入の手順を調べる力は、そのまま攻撃にも使えます。そこで 10 月 6 日、審査に通った専門家にだけ、止める仕組みを弱める制度を広げました。
平川氏が「光と闇」と表現したのは、この両面性のことです。今回の制度は、その線引きを「誰が使うか」で行う試みと言えます。
3 つの区分で、何ができるようになるの?
平川氏が整理した 3 段階を、原典の条件で補うと次のようになります。
| 区分 | 使える作業 | 申請できる相手 | 審査の目安 |
|---|---|---|---|
| 防御 | 監視拠点の業務、攻撃を受けたときの対応、悪意のあるプログラム(マルウェア)の解析、弱点の分析 | 企業・大学・行政の担当者、地域の病院や自治体の公益事業、個人の研究者など | 数日 |
| 侵入テスト | 許可を得たシステムへの侵入テスト、攻撃者役による模擬攻撃(レッドチーム演習) | 組織だけ。個人は不可 | 数週間 |
| 重要インフラのテスト | 航空機の運航システム、電力網、銀行間送金の基盤などの試験 | 試験の権限を持つ限られた組織 | 米国政府と 1 組織ずつ |
侵入テストの区分でも、身代金要求型のウイルス(ランサムウェア)を仕掛けるような操作は、その場で止められます。物理的な被害や大規模な混乱につながるからです。
安全策は、実際にどこまで効いているの?
Anthropic は、Opus 5.5 に 10 個の課題を 5 回ずつ解かせる試験(CyScenarioBench)の結果も出しています。一般向けの設定では、全 50 回が最初の指示の段階で止まりました。
防御の区分では、50 回のうち 46 回を止め、4 回が通りました。侵入テストの区分では止めた回はなく、50 回のうち 34 回をやり遂げています。安全策を外したときと同じ水準です。区分ごとに開く範囲が狙いどおりに違う、という結果です。
12.9 万件の弱点は、どこから出てきたの?
Anthropic は過去 6 か月、2 つの仕組みで力を開いてきました。重要なソフトウェアを守る組織に Claude Mythos を提供する Project Glasswing と、以前の CVP です。今回この 2 つを 1 つにまとめました。
参加組織は 2026 年 4 月から 7 月に、検証済みの弱点を 12.9 万件見つけました。Anthropic 自身のオープンソース調査でも、10 月までに 5,500 件が見つかっています。
なお、平川氏が挙げた 3.3 万件は、この両方を合わせた中で「重大・高」と評価された件数です。Anthropic は、実際の影響は少なくとも 5 倍あると見込んでいます。
使う前に知っておくべき条件は?
参加する組織には、やり取りのデータを保存しておく義務があります。悪用されていないかを Anthropic が確かめるためです。
データを残さずに使える仕組み(Enterprise Frontier Safeguards)は、この秋に提供される予定です。それまでは、保存される前提で使い道を決める必要があります。
一方、審査を受けなくてもできることもあります。一般向けの Claude でも、コードの見直し、既知の問題の修正、自社コードの弱点探し、警告の仕分けは使えます。
日本の動きと、どう重なるの?
平川氏が触れた日本の法整備では、能動的サイバー防御の関連法が 2025 年 5 月に成立しました。2026 年 10 月 1 日からは、攻撃元とみられるサーバーにアクセスして無害化する措置が動き始めています。
この法律は、国の安全保障としての防御の枠組みです。政府は、基幹インフラの事業者との協定にもとづいて通信の情報を受け取ります。国が守りを強める時期に、民間の守る側も AI という道具を手にしつつあります。
SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか
盗むべきは「強い道具は、身元と用途を示した相手にだけ開く」という設計です。自社で AI を社内に広げるときも、使う人と使い道を先に決めれば、開ける範囲を広げられます。月曜にできるのは、セキュリティを誰が担っているかを確かめ、その人と申請の是非を話すことです。
中小企業なら、まず審査の要らない範囲から始められます。自社のコードの見直しや、警告の仕分けです。外部の委託先に任せきりのままだと、委託先が AI を使っているかどうかも分かりません。次の契約更新で、守りに AI をどう使っているかを聞くことから始められます。
要点まとめ
- Anthropic は 10 月 6 日、Claude のサイバー能力を審査つきで開く CVP を 3 段階に広げた
- 防御の区分は地域の病院や自治体の公益事業も対象で、審査は数日。侵入テストは組織だけで数週間
- 重要インフラのテストは、米国政府と 1 組織ずつ審査する
- 先行の参加組織は 12.9 万件の弱点を見つけ、Anthropic 自身の調査分を合わせて 3.3 万件が「重大・高」
- 参加にはデータ保存の義務がある。一般向けの Claude でも、自社コードの弱点探しや警告の仕分けはできる
- 日本では 10 月 1 日に能動的サイバー防御の無害化措置が始まり、守る側の体制づくりが経営の課題になる
情報ソース:
・Anthropic「Expanding the Cyber Verification Program」(2026 年 10 月 6 日)
・rocket-boys.co.jp「能動的サイバー防御、制度設計から実装段階へ 2026年10月1日に無害化措置 開始」(2026 年 3 月 18 日)
・元投稿:平川知秀氏(@t_hirakawa)、2026 年 10 月 7 日
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