X で話題になっていた投稿を、SYNCON 編集部が深掘りします。公認会計士・税理士の大野修平氏(@Shuhei_Ohno)は、「AI の時代に新人はどう経験を積むのか」という心配そのものを、時代遅れだと言い切りました。
部下に「キミじゃなく AI に考えさせて」と言い続けたら、新卒 2 年目が難しい議論の相手になったという体験談です。人をどう育てるかは、どの職場にも関わる話です。
30 秒でわかるポイント
- 大野氏の下で AI に考えさせる働き方をしてきた新卒 2 年目が、複雑なオプションの価値評価を大野氏と議論できるまでになりました
- Anthropic の実験(52 人)では、AI に丸ごと任せた人の理解度テストは 40% 未満、考え方を質問した人は 65% 以上でした
- 特許弁護士 133 人の実験では、AI なしの腕前が伸びたのは経験 7 年以上の人で、7 年未満は平均では伸びませんでした
1 分でわかる解説
大野氏の見立ての核心は、AI が「最高の家庭教師」になるという点です。わからないことをその場で教わり、しかも題材は実際のお客様のデータです。伸びるかどうかは、それをどう使うか次第だという主張です。
研究も「使い方で分かれる」点は支えています。一方で、若手の平均は放っておくと伸びにくいという結果も出ています。伸びる人を待つのか、伸びる使い方を職場で教えるのかは、経営の判断になります。
ここから考えたい 3 つの問い
- 身近な職場の若手は、AI に答えを出させていますか? それとも理由を聞いていますか?
- AI が下書きを作るようになって、新人がつまずいて覚える機会は残っていますか?
- ベテランが「どこを見て、どう疑うか」を言葉にして伝える場はありますか?
全文を読む(約 5 分)
「新人はどう経験を積むのか」は、なぜ時代遅れなの?
大野修平氏は公認会計士・税理士で、セブンセンス税理士法人のディレクターです。会計事務所向けの AI 研究会では総合ディレクターを務め、研究会の参加は 700 事務所を超えました。
きっかけは、川邊健太郎氏(@dennotai)の 10 月 17 日の投稿です。川邊氏は、安宅和人氏のブログ記事「AI native時代の袋小路 ― 見立てる力はどこから来るのか」を紹介しました。この記事は 5 月 26 日に公開されたものです。
大野氏はこれを引用し、自分も含めた「オジサン達」の心配を問い直しました。AI が無い時代は、部下を育てて分業するのが組織の最適解でした。今は分業を AI が担うので、成長は個人の判断に任されるようになった、という見立てです。
この投稿が効いているのは、心配の出どころを言い当てた点です。新人の育成を不安に思う気持ちは、昔の組織の形を前提にしている、という指摘です。
「AI に考えさせろ」で、なぜ新人が育ったの?
大野氏は部下に、考えるのもリサーチも成果物も AI にやらせるよう、口酸っぱく伝えています。その下で、新卒 2 年目が複雑なオプション(将来に決まった条件で株などを買える権利)の価値評価を議論できるようになりました。
大野氏は AI を、わからない点をピンポイントで教えてくれる家庭教師にたとえます。題材はお客様の実データで、これ以上学びがいのある環境はない、とも書いています。
AI の開発元 Anthropic が 1 月 29 日に公表した実験は、この「使い方で分かれる」を裏付けます。主に若手のエンジニア 52 人を、AI を使う組と手で書く組に分けました。初めて触る道具でプログラムを書かせ、その後に理解度のテストをしました。
| AI の使い方 | 理解度テストの平均 |
|---|---|
| AI を使った組の全体 | 50% |
| 手で書いた組の全体 | 67% |
| コードを丸ごと AI に任せた人など | 40% 未満 |
| 説明や考え方を AI に質問した人など | 65% 以上 |
差が最も大きかったのは、誤りを見つけて直す問題でした。研究者は、頭を使い、ときには行き詰まることが上達には大事だろうと書いています。大野氏の新卒 2 年目は、AI を家庭教師として使う側にいたと読めます。
放っておいても、若手は育つの?
ここで、もう一つの研究が効いてきます。デビッド・オーター氏ら Google の研究チームが 10 月 7 日に紹介した実験です。11 の法律事務所の特許弁護士 133 人を、くじ引きで AI を使う組と使わない組に分け、3 か月追いました。
AI を使った組は、特許の書類の質が全体として上がりました。若手は、対照の組の平均 124 分に比べて 18 分速く仕上げました。
ただし、AI を使わずに他人の書類を直すテストでは、差が出ました。経験 7 年以上の人は腕前が伸びましたが、7 年未満の人は平均では伸びませんでした。若手の点数は、とても低い人と良い人に分かれたのです。
ベテランは AI の出力を「論理の監査役」として使い、自分が直す理由を言葉にするようになったと語っています。若手には、問題を指摘できても直しきれない傾向があり、3 か月では改まりませんでした。
大野氏の言う「分かれる」は、ここでも確かに起きています。違いは、放っておくと伸びる側が少数にとどまるかもしれない点です。
「組織が面倒を見る理由はない」への、もう一つの答え
大野氏が引用した安宅氏の記事は、反対側の立場から書かれています。判断力は、伝票処理や契約書の読み込みといった下積みの副産物として、ほぼ自動的に育ってきたという見方です。
AI で下積みが消えると、一社ごとには合理的でも、社会全体では判断力を育てる回路が切れます。安宅氏はこれを「局所合理性と全体合理性の衝突」と呼び、3 つの打ち手を挙げます。
| 打ち手 | 中身 |
|---|---|
| 教育 | AI に任せてよいことと、人が苦労して通るべき工程を分けて設計する |
| 組織 | AI の出力を批評し直す訓練をし、ベテランの判断を言葉にして引き継ぐ |
| 閉じない世界 | 育児や介護、職人仕事など、AI が触れにくい領域を残す |
AI を使いながら本物の修羅場を一緒にくぐらせる「修羅場 with AI」という考え方も紹介されています。Anthropic も、管理職は AI の配り方を意図して考えるべきだと書いています。
実は大野氏も、部下に AI の使い方を繰り返し伝えています。「本人次第」と言いながら、伸びやすい使い方の型を渡しているとも読めます。
SYNCON の視点 — 日本の非エンジニア経営層は何を盗むべきか
盗むべきは、大野氏の「AI に考えさせて」という型と、その先の問いです。答えを出させた後に「なぜそうなるのか」を AI に説明させ、それを上司に自分の言葉で話させる。これなら、仕事の速さと学びを両方取れます。特許弁護士の実験にならい、ときどき AI を使わずに確かめる場を作るのも手です。
「本人次第」で伸びる人は確かにいます。ただ、経営が気にするのは一部の人ではなく、採用した人全体の伸びです。ベテランが「どんな兆候を見て、どう疑い、どう確かめるか」を言葉にして残す。月曜から始められるのは、その一枚のメモ作りです。
要点まとめ
- 大野修平氏は、新人の経験の積み方を心配すること自体が、昔の組織の形を前提にしていると指摘しました
- AI に考えさせる働き方の下で、新卒 2 年目が複雑なオプションの価値評価を議論できるまでになったといいます
- Anthropic の実験では、AI に丸ごと任せた人は 40% 未満、考え方を質問した人は 65% 以上と、使い方で学びが分かれました
- 特許弁護士 133 人の実験では、AI なしの腕前が伸びたのは 7 年以上の人で、若手は平均では伸びず二極化しました
- 安宅和人氏は、下積みが消える分、組織が判断力の育て方を設計し直すべきだと説いています
- 伸びる使い方の型を職場で渡すかどうかが、経営の判断になります
情報ソース:
・Anthropic「How AI assistance impacts the formation of coding skills」(2026 年 1 月 29 日)
・Google Research「Does better work always mean better workers?」(2026 年 10 月 7 日)
・安宅和人「AI native時代の袋小路 ― 見立てる力はどこから来るのか」(2026 年 5 月 26 日)
・article.ejinzai.jp「会計事務所向けAI研究会 参加700事務所を突破」(2026 年 2 月 27 日)
・引用元の投稿:川邊健太郎氏(@dennotai)、2026 年 10 月 17 日
・元投稿:大野修平氏(@Shuhei_Ohno)、2026 年 10 月 18 日
AI・最新テックの動きを、毎日 X でお届けしています
X で @SYNCONJP をフォロー




コメント