富士通は、IT サービスの値段を「技術者が何人で何か月働いたか(人月)」で決めるやり方をやめていきます。価値で値付けする割合を、2025 年度の 20% から 2030 年度に 60% へ上げる目標です。
発注する側にとっては、見積もりの読み方と、成果の測り方を決め直す話です。
30 秒でわかるポイント
- 富士通は価値で値付けする割合を、2030 年度に 60%、2035 年度に 80% へ
- 日立は現場に入る AI の技術者を、2026 年度内に国内 1,000 人にする計画
- 払う対象が「時間」から「成果」に移ると、発注側にも成果の物差しが要る
1 分でわかる解説
人月の見積もりでは、早く仕上げるほど売り上げが減ります。AI で工期が縮むほど、業者は損をする仕組みです。
| これまで(人月) | これから(価値で値付け) | |
|---|---|---|
| 何に払うか | 技術者の作業時間 | 納期の短縮、扱ったデータの量、事業の成果 |
| 早く終わると | 支払いが減る | 短縮した分が値段に乗りうる |
| 発注側が見るもの | 人数と月数 | 成果の定義と測り方 |
同時に、顧客の現場に入り込んで AI を導入する技術者(FDE)を売り出す会社が増えています。深く入り込むほど、その業者なしでは仕事が回らなくなる危険も増えます。
自社で確かめる 3 つの問い
- 外注の見積もりを、人数と月数以外の物差しで比べていますか?
- 成果で払う契約にしたとき、その成果を誰がどう測るか決めていますか?
- 外部の技術者が作った仕組みを、自社の人が説明できますか?
全文を読む(約 4 分)
何が起きたの? — 富士通が「人月の先」を数字で示した
富士通は 2026 年 9 月 16 日、投資家向けの説明会(IR Day 2026)で値付けの方針を示しました。説明したのは、売り上げを伸ばす責任を負う大西俊介副社長(最高収益責任者、CRO)です。
目標は、顧客に届けた価値を起点に値段を決める売り上げの割合です。
| 年度 | 価値で値付けする割合 | 粗利率の押し上げ(想定) |
|---|---|---|
| 2025 年度(実績) | 20% | — |
| 2030 年度 | 60% | 3% 以上 |
| 2035 年度 | 80% | 5% 以上 |
大西氏は、かかった費用を積み上げて値段を決めるやり方では、AI が生む価値を値段に十分に映せない、と指摘しました。推進役として、2026 年 7 月には値付けを専門に担う組織(AI Pricing CoE)も立ち上げています。
時田社長も「人月をベースにした(対価の)いただき方では、これ以上の成長は見込めない」と話しています。
現場に入る技術者を増やす動きも続いています。日立製作所は 9 月 3 日、こうした技術者のチーム(Physical AI FDE Team)を新しいサービスとして発表しました。日本経済新聞によると、日立は 2026 年度内に国内の FDE を 1,000 人にする計画です。
リコーも 6 月 29 日、AI の構想から実装・定着までを一貫して支援する新会社「リコーAIコンサルティング」の設立を発表しました。
「価値で払う」「現場に入る技術者」って何?
富士通は、サービスの種類ごとに払い方を分けて考えています。
| サービスの種類 | 払い方 | 例 |
|---|---|---|
| 専門家が手を動かすサービス | 生み出した成果に払う | 納期を縮めた効果、事業の成果を分け合う |
| ネット経由で使うソフトや AI の基盤 | 使った量に払う | AI が扱った業務データの量 |
現場に入る技術者(FDE)は、Forward Deployed Engineer の略です。日立の説明では、IT と、工場や設備を動かす技術(OT)、製品の専門知識を持つチームが顧客の現場に伴走します。
現場の人が経験で持っている知識を引き出し、AI が使えるデータに整えます。導入後の監視と運用までを、一続きで受け持ちます。
背景には、IT サービスそのものへの逆風があります。米調査会社フォレスター・リサーチは 2026 年 8 月下旬、AI で最も大きな打撃を受けるのは、人の時間や専門知識に頼ってきた IT サービスだという評価を公表しました。要件の整理から設計、プログラムの作成まで、開発のほぼ全工程に生成 AI が入り込めるためです。
発注する会社は何を変えればいいの?
払い方が変わると、発注側が決めることも変わります。
| これまで | これから | |
|---|---|---|
| 見積もりの比べ方 | 人数、月数、単価 | 何を成果とし、いくら払うか |
| 契約で決めること | 作業の範囲と期間 | 成果の定義、測り方、取り分 |
| 工期が縮んだとき | 支払いが減る | 短縮した効果に払うこともある |
| 業者の関わり方 | 作って納める | 現場に入り、運用まで続ける |
ただし、業者の一存では進みません。時田社長は「お客様とのエコシステムが必須のビジネスモデルでもある」とも話しています。発注側が成果の測り方に合意しなければ、成り立たない仕組みです。
注意点もあります。成果で払う契約は、何を成果とみなすかで揉めやすくなります。現場に深く入る技術者が抜けると、仕組みを誰も説明できなくなる恐れもあります。
SYNCON の視点 — 払い方を変える前に、物差しを持つ
成果で払う契約は、発注側が成果を測れて初めて公平になります。測れなければ、業者の示す効果をそのまま受け入れることになります。まず、いまの業務にどれだけの時間と費用がかかっているかを、自社で記録しておくことが出発点です。
現場に入る技術者を迎えるときは、縛られない手当てを契約に入れておきます。作ったデータや手順書を自社のものにすること。担当が替わったときの引き継ぎの方法。自社の社員が隣で一緒に作業し、中身を説明できる人を育てること。
人月の見積もりが一概に悪いわけではありません。何を作るかがまだ固まっていない段階では、時間で払うほうが範囲を管理しやすい場面もあります。案件ごとに「時間で払うか、成果で払うか」を選べる目を持つことが、これからの発注側の仕事になります。
要点まとめ
- 富士通は価値で値付けする割合を、2025 年度の 20% から 2030 年度に 60%、2035 年度に 80% へ上げる目標
- 粗利率の押し上げは 2030 年度に 3% 以上、2035 年度に 5% 以上を想定
- 日立は現場に入る技術者のチームをサービス化し、2026 年度内に国内 1,000 人の計画
- リコーも AI の構想から定着までを支援する新会社を設立
- 発注側は、成果の定義と測り方、業者に縛られないための契約を先に決める
情報ソース:
・クラウド Watch「富士通「IR Day 2026」レポート」(2026 年 9 月)
・Business Insider Japan「「早く仕上げるほど売上は減る」。富士通・時田社長が語るSIerが「人月の通用しない時代」で稼ぐ方法」(2026 年 9 月 24 日)
・日経クロステック「富士通が2030年度に価値提供ベースの売り上げを6割に、人月の先を具体化」(2026 年 9 月 18 日)
・日立製作所 プレスリリース「日立、フィジカルAIの社会実装を加速させる「HMAX」を拡充」(2026 年 9 月 3 日)
・日本経済新聞「IT大手4社、「FDE」拡充急ぐ 日立は26年度内に国内1000人」(2026 年 8 月 28 日)
・リコー ニュースリリース「AI実装に特化した「リコーAIコンサルティング株式会社」を設立」(2026 年 6 月 29 日)
・日経クロステック「AIで薄れるソフトとサービスの境界、業界再編に乗れない日本勢」(2026 年 9 月 29 日)
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