【KEYWORD SYNC】Microsoft を使う会社が Google を足す理由 — 併用と乗り換えの分かれ目

KEYWORD SYNC

Microsoft の業務ツールを使い続けながら、生成 AI を目当てに Google のツールを足す組織と、比較のうえで乗り換える組織が出てきた。ソニーの子会社は Microsoft の環境を残したまま Google の生成 AI を全正社員に配り始め、利用率は約 75% に達した。約 4,000 人が働く高崎市は、同じ比較から Google 側を選んだ。いまの契約を続けるか、足すか、替えるか。二つの事例は、その判断に使える具体的な材料になる。

何が起きたか — 併用を選んだ会社、乗り換えを選んだ市

併用を選んだのは、ソニーの子会社であるソニーネットワークコミュニケーションズだ。同社はメールや文書、表計算をまとめた Microsoft の契約(Microsoft 365、以下 M365)を使っている。そこに、Google の同種のツール一式(Google Workspace)と、その中で動く生成 AI(Gemini)を加えた。2024 年 9 月に 100 ユーザー限定の検証を始め、2026 年 2 月に AI の利用ガイドラインを整えたうえで全正社員へのアカウント配布に着手した。完了は 2026 年 10 月の予定だ。Gemini の利用率は約 75%、講演時点では約 80% まで上がったという。

乗り換えを選んだのは高崎市だ。市役所では再任用職員や嘱託職員を含めて約 4,000 人が働き、3,000 を超えるアカウントを想定する。市は M365 について、これまで使ってきた Office 製品との相性の良さを認めていた。それでも、ライセンス費用を含む総コストが大きな障壁になった。一方の Google Workspace は、管理画面の使いやすさ、検索性能、保存容量が評価された。市が長く抱えていた「情報が探しにくい」「保存容量が足りない」という課題を解消できると判断し、導入を決めた。

経緯 — なぜ Google を足したのか、なぜ替えたのか

ソニーネットワークコミュニケーションズは、Gemini の前にも自社で開発した AI チャットを全社に提供していた。しかし利用率は伸びなかった。同社が挙げた原因は、そのツールがメールや文書作成といった普段の業務の画面から切り離されていたことだ。AI が別の窓にあると、忙しい社員はわざわざ開かない。Gemini はメールや文書の画面の中で使える。そこが選定の理由になった。

二つの環境を並べると、予定表や共有の設定が食い違いやすい。同社は社外とのメールを M365 に残し、会議の招待や予定変更のメールだけを Google 側へ転送して、どちらでも予定が見えるようにした。共有の単位となる社員のグループも、ソニー全体で使う Microsoft 側の設定を定期的に写し取る仕組みを用意した。定着の面では、役員から現場まで全層に 3 時間の実技研修を行った。ガイドラインはあえて後から入れた。最初から厳しく縛ると現場が使わなくなる、という判断だ。新しいツールに慣れない社員には、「入口は Gemini や、複数の資料を読ませて要約・整理させる Gemini Notebook を使い、出口は使い慣れた Microsoft の環境へコピーする」という使い方を勧めている。

高崎市は、それまで社内の予定表や文書共有をまとめた仕組み(グループウェア)を含む多くの業務システムを、自前のサーバーで動かしていた。検証の段階では、文書作成や表計算の操作感が従来の製品と違う点が課題になった。市はここで全面移行にこだわらず、マクロや過去の様式を使う業務では Office を含む従来のソフトを使い続ける方式を選んだ。導入後、Gemini の利用は生成 AI に慣れた若手だけでなく、「制度について今さら部下に聞きにくい」と感じる管理職にも広がった。Gemini Notebook(旧 NotebookLM)を含む AI 機能は、導入検討時の想定を上回る速さで進化したという。

経営層への影響 — 判断を分けた三つの問い

二つの事例を並べると、判断の分かれ目は三つに整理できる。

一つ目は、AI が社員の普段の画面の中にあるかどうか。ソニーネットワークコミュニケーションズの自社開発チャットは、性能の前に「置き場所」でつまずいた。AI の導入効果を左右するのは、どの会社の AI かより、社員が毎日開く画面に入っているかどうかだ。

二つ目は、社外とのやり取りと過去の資産をどこに残すか。併用した会社は社外とのメールを M365 に残し、乗り換えた市もマクロや過去の様式の業務には Office を残した。どちらも Microsoft を完全には捨てていない。取引先とのファイルのやり取りが多い会社ほど、「全面移行」ではなく「どこを残すか」の設計が要る。

三つ目は総コストだ。高崎市の判断を動かしたのは、機能の優劣ではなくライセンス費用を含む総額だった。併用は二つの契約と二つの運用を抱えることになる。乗り換えは契約を一本にできるが、操作感の違いに慣れる期間を社員に求める。どちらの負担を取るかは、会社の規模と、情報システム担当の人数で変わる。

SYNCON の視点 — AI は「どの会社か」より「どこに置くか」

生成 AI の比較記事は、性能や月額料金の表で語られがちだ。だが二つの現場が示したのは、使われるかどうかを決めるのは置き場所だという事実だった。別の窓にある AI は開かれない。メールや文書の中にある AI は、若手にも、部下に聞きにくいことを抱えた管理職にも使われた。契約を見直すときに見るべきは、機能表より社員の一日の画面の動線だ。

もう一つの教訓は、どちらの事例も「全部替える」を選ばなかったことだ。社外とのメールやマクロの業務は Microsoft 側に残し、AI を使う入口だけを Google 側に置いた。乗り換えか併用かの二択で悩む前に、業務を「残す部分」と「AI に寄せる部分」に分けて考えれば、選択肢はもっと細かく取れる。来週の経営会議で問うべきは、「うちの社員は、いま使っている AI を毎日の画面の中から開けているか。開けていないなら、足すのか、替えるのか、置き場所を変えるのか」である。

要点まとめ

  • ソニーネットワークコミュニケーションズは M365 を残したまま Google Workspace と Gemini を併用し、利用率は約 75%(講演時点で約 80%)に達した
  • 同社の自社開発 AI チャットが使われなかった原因は、メールや文書の画面から切り離されていたこと
  • 約 4,000 人が働く高崎市は、Office との相性では M365 を認めつつ、総コストと検索性能、保存容量で Google Workspace を選んだ
  • 併用した会社も乗り換えた市も、社外メールやマクロの業務では Microsoft 側を残している
  • 判断の分かれ目は、AI の置き場所、残す業務の範囲、総コストの三つ

情報ソース:
・キーマンズネット「ソニー子会社、M365環境にあえて「Gemini」を導入 システムを競合させない工夫とは」(2026 年 9 月 1 日)
・キーマンズネット「「親和性ならM365」でも高崎市がGoogle Workspaceを選んだ理由」(2026 年 8 月 12 日)
・ITmedia エンタープライズ「M365があるのに、なぜGoogle? 併用・乗り換えを決めた現場の理由」(2026 年 9 月 24 日)

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