社内の変革が途中で止まる理由を、マッキンゼーが 9 月に公開した調査記事が整理している。狙った価値を出せている変革は全体の 30% にとどまり、残りを止めているのは予算でも技術でもなく、組織の中の振る舞いだった。しかもその詰まりは 5 つの型に分かれ、どれも社長本人が動かないと外れない場所にある。
何が起きたか — 止まるのは技術の手前
調査は、Kurt Strovink 氏ら複数のシニアパートナーが率いたもので、多数の変革プログラムの結果を突き合わせている。結論は身も蓋もない。経営陣が期待した価値を出す、あるいは超える変革は 30% だけで、残りは途中で失速する。
注目すべきは、失速の原因として市場環境や競合がほとんど挙がらないことだ。代わりに名指しされているのは「集団行動の問題」、つまり部門や個人がそれぞれ合理的に振る舞った結果、全体としては誰も最適化していない状態である。逆に、自社の潜在力に本気で賭けた組織では、変革が当初の期待の 2 倍を超える価値を出していた。止まるか跳ねるかの差は、技術の導入可否のはるか手前で決まっている。
詰まりの 5 つの型
調査が挙げる型を、日本の中堅企業の言葉に置き換えるとこうなる。
- 届く目標しか置かない — 本当の可能性ではなく、達成できるとわかっている数字を目標にしてしまう
- 情報を抱え込む — 進捗が部門の中で閉じ、小さな異常が見えないまま大きくなる
- 努力の向きがそろわない — 各部門が自分の目標だけを追い、全体の狙いと噛み合わない
- 動かす人が増えない — 社長が信頼するごく少数の側近だけで回そうとする
- 期間限定の企画で終わる — 変革を通常業務の外にある特別プロジェクト扱いにする
三番目の型について、調査は動機づけの数字を添えている。仕事に本当の意味を見出している社員は、そうでない社員より 33% 高い成果を出し、組織への関与は 75% 強い。数字目標だけを掲げる経営者と、そこに意味を重ねられる経営者とで、同じ人員から出てくるものが変わるということだ。
四番目の型はさらに直接的だ。人の能力を実際に育てながら進めた変革は、そうでない変革より成功率が 20 倍高い。そして平均的な変革が巻き込む社員は全体の 2% にすぎないのに対し、成功した変革は 20〜30% を巻き込んでいた。変革が社長室と一部の幹部の中だけで進んでいるなら、それは始まっていないのとほぼ同じである。
経営層への影響 — なぜ社長しか外せないのか
この 5 つに共通するのは、部長の権限では外せない詰まりだという点だ。目標の高さを決め直すのは社長であり、部門をまたいで進捗を開かせる指示を出せるのも社長である。評価と報酬をどこに紐づけるか、誰を次の推進役として引き上げるか、そして変革をいつ「通常業務」に降ろすかも同じだ。いずれも部門最適の外側にあり、部門長が自発的に動くと自分の評価を下げかねない。だから放置される。
デジタル化による事業の作り替え(DX)や AI 導入が日本企業で進まないとき、議論はたいてい「ツールが合わない」「人材がいない」に着地する。だがこの調査が示すのは、ツール選定より前に、目標設定・情報共有・評価・人材登用という経営者の専権事項が詰まっているという構図だ。AI の導入案件が社内の一部門にとどまり、隣の部門が同じ課題を別のツールで解いている。これは技術の問題ではなく、二番目と三番目の型が同時に出ている状態である。
SYNCON の視点 — 直すのは会社ではなく、社長の予定表
5 つの型を前にすると、全部やろうとしたくなる。それが最も確実な失敗の仕方だ。社長の時間と政治的な資本は有限で、五方向に薄く配ると、どれも中途半端なまま「また新しい取り組みが始まった」という社内の疲労だけが残る。むしろ有効なのは、自社が今どの型で止まっているかを一つだけ見極め、そこに社長が自分の時間を集中させることである。
見分け方は単純でいい。直近の経営会議で誰も反対しなかった目標があるなら一番目、他部門の進捗を数字で言える役員が半分に満たないなら二番目、評価面談で全社の狙いが一度も出てこないなら三番目、推進役として名前が挙がる人が去年と同じ顔ぶれなら四番目、そして「あのプロジェクトどうなった」が通じるなら五番目だ。来週の経営会議で問うべきは、次にどのツールを入れるかではなく、この 5 つのうち自社がどこで止まっていて、それを外すために社長である自分が来月何をやめるか、である。
要点まとめ
- 経営陣が期待した価値を出せている変革は 30% にとどまり、失速の原因は市場でも競合でもなく組織内部の振る舞いにある
- 詰まりは「低い目標」「情報の抱え込み」「向きのずれ」「推進役が増えない」「期間限定扱い」の 5 つの型に整理できる
- 仕事に意味を見出す社員は成果が 33% 高く、組織への関与は 75% 強い
- 能力を育てながら進めた変革は成功率が 20 倍。平均的な変革の巻き込みは社員の 2%、成功例は 20〜30%
- 5 つとも部門長の権限では外せず、目標・情報・評価・登用という社長の専権事項に属する
- 全部に手を付けず、自社が止まっている型を一つ特定して社長の時間を集中させる
情報ソース:
・The Executive Magazine「The CEO’s role in making transformation work」(Molly Ferncombe、マッキンゼーの Kurt Strovink 氏らによる変革調査の報告)
・McKinsey & Company「Why transformations stall—and where only CEOs make the difference」(2026 年 9 月 17 日)
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