受発注や会計の数字が入った社内の基幹システム。その中身を、外注先や一部の専門家に頼まず自社の人が使える状態にする。これが「内製化」の実際の中身です。ライオンは生成 AI を使って、経験の浅いエンジニアでも基幹システムのデータを扱えるようにし、覚える手間を最大 90% 減らしました。誰に任せるかを決め直す材料になる事例です。
何が起きたか — 覚える手間を最大 90% 削った
ライオンは 2022 年 5 月から、販売・会計・生産を支える基幹システムの製品として SAP の S/4HANA を使っています。この中に溜まったデータを、Google のデータ分析基盤(BigQuery)で分析できるようにする取り組みを進めてきました。
壁になったのは、基幹システムの中の決まりごとが SAP 独自のプログラム言語(ABAP)で書かれている点です。データを取り出して分析するには、その決まりごとを、データを扱う共通の言葉(SQL)に書き直す必要があります。ABAP を読める人は社内に多くありません。
ITmedia エンタープライズによると、ライオンは Google の生成 AI(Gemini)に、この書き直しを手伝わせました。初心者のエンジニアでも扱えるようにし、SAP の学習にかかる工数を最大 90% 削減したといいます。あわせてデータの持ち方を設計し直し、BigQuery の上で動く AI の仕組みの活用も進めています。
経緯 — 昨年秋は AI でも書き直せなかった
この話が示唆的なのは、つい最近まで同じ作業が手作業だった点です。ライオンのデータ担当者が 2025 年 11 月に公開した技術記事には、ABAP が読めないうえ、生成 AI でも効率的に書き直せなかったため、SAP の定義書を見ながら SQL で再現した、と書かれています。
その前月の 2025 年 10 月 15 日、ライオンは全社のデータ基盤を内製で構築したと発表しました。企画から構築、運用まで外部ベンダーへの依存を最小限にし、社内の専門組織「クラウド CoE(Center of Excellence)」が主導したとしています。Google Cloud の事例記事では、担当者が「当初、社内に Google Cloud の知見は豊富ではありませんでした」と振り返り、以前は古くなったデータセンターの維持に IT 予算の大半が費やされる「守りの IT」だったと説明しています。
つまり、先に「社内でやる」と決めて体制を作り、手作業で道をならし、その上に生成 AI を載せた順番です。AI が先ではありません。
経営層への影響 — 内製力を失った理由は技術ではない
日経クロステックは、多くの企業の IT 部門がシステムの内製力を失って久しいと指摘します。理由は単純で、少なくとも 2000 年代まで、一部の小売業や金融機関を除けば IT 部門の地位があまりに低かったからだ、としています。
基幹システムのデータが「外注先しか触れない箱」になっている会社は少なくありません。数字を一本出すにも依頼書を書き、見積もりを待つ。この待ち時間が、経営判断の遅れとしてそのまま跳ね返ります。
ライオンの事例が変えるのは、「専門家を何年もかけて育てないと内製できない」という前提です。覚える手間が大きく減るなら、候補者は社内の別部署にもいます。問題は技術ではなく、誰に任せ、どこまで権限を渡すかという人事と組織の判断に移ります。
SYNCON の視点 — 内製化は「人の配置」の問題
内製化という言葉は、開発を全部自社でやる大がかりな話に聞こえがちです。実際に効くのは、もっと手前の一歩です。自社の数字を、自社の人が自分で取り出せる状態を作る。ライオンが最初に着手したのも基幹システムのデータ整備でした。生成 AI は、その一歩に必要だった「専門知識の壁」を低くしました。
ただし壁が低くなっても、登る人がいなければ何も変わりません。ライオンには先に専門組織と手作業の蓄積がありました。AI の導入よりも先に決めるべきは、社内の誰にこの仕事を任せるかです。来週の経営会議で問うべきは、自社の基幹システムのデータを、社内の誰が、外注先を通さずに取り出せるかです。
要点まとめ
- 内製化の実際の中身は、外注先や専門家しか扱えなかった基幹システムのデータを、社内の人が使える状態にすること
- ライオンは生成 AI(Gemini)で SAP 独自の言語を共通の言葉(SQL)に書き直し、学習の工数を最大 90% 削減
- 昨年秋の時点では生成 AI でも書き直せず、定義書を見ながら手作業で再現していた
- 先に社内の専門組織を作り、外部ベンダーへの依存を最小限にする方針を決めていた
- IT 部門が内製力を失った背景には、長く続いた IT 部門の地位の低さがある
- 覚える手間が減った今、論点は「誰に任せるか」という人の配置に移る
情報ソース:
・ITmedia エンタープライズ「ライオンの『時短90%』内製化術 ABAPを読めない開発者がSAPデータをBigQueryで活用」(2026 年 09 月 24 日)
・日経クロステック「格下でリストラ続きだったIT部門 経営戦略の要へと復活できるか」(2026 年 09 月 25 日)
・ライオン(PR TIMES)「ライオン、Google Cloud でデータドリブン経営を加速~SAPデータをリアルタイム活用する全社データ基盤を内製、AIによる需給予測も視野に~」(2025 年 10 月 15 日)
・Google Cloud 公式ブログ「ライオンが挑む『攻めの IT』への変革。BigQuery をデータ戦略の中核に据えた次世代データ基盤構築の舞台裏」(2025 年 10 月 15 日)
・Zenn(ライオン)「ライオンのデータマネジメント」(2025 年 11 月 04 日)
AI・最新テックの動きを、毎日 X でお届けしています
X で @SYNCONJP をフォロー




コメント